人気の器作家の工房を訪ねて 第5回(全6回) 今人気を集めるのは、作り手の感性が発揮された個性的な器です。今回の器セレクトの基準は“愛らしさ”。陶磁、ガラス、竹。異なる素材に向き合う4人の作家の工房を訪ねて、創作にかける想いを伺いました。
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岡 悠さん
大ぶりの手付きの三段重におむすびやおかずを詰めてピクニックへ。蓋は、花丸網代編み、上段は四ツ目編み、中段と下段は波網代編み。料理を盛るとき、下に笹の葉や竹皮を敷くと、汚れがつくのを防いでくれる。三段重9万9000円。毎日使って楽しく、美しい竹の日用品を作る
網代編み、四ツ目編み、六ツ目編みなど、基本的な竹の編み方をもとにしながら、巾(はば)の違う竹、色の異なる竹を組み合わせて、浮菊文様や花丸網代文様といった愛らしい意匠の竹の器を作る岡 悠さん。
岡 悠さん(おか・ゆう) 北海道札幌市生まれ。2004年に京都伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)に入学、卒業後は石田竹美斎氏の工房で5年間修業。14年に京都府・宇治田原町に自身の工房「ユウノ竹工房」を構え、独立。最新情報はインスタグラム@younotakekoboにて。竹を割り、ひごを作り、編むところまで、すべて一人で行っているので、年間にできる数は多くても400点余り。今年8月に東京で開かれた個展では、約160点の作品が一日で売り切れてしまうほどの人気を集めました。
「実用品として機能するもの、かつ美しいものを作っていきたいですね。編み方も凝れば凝るほど時間がかかり、価格も上がってしまいます。そうすると、大事にしまい込まれたり、使いづらくなったりするので、買い求めやすい価格というのも大切にしています」
定番の器をひととおり作りきってしまった頃、ギャラリーからの依頼で作ったのが手付きの茶こし。こす部分の編み方のバリエーションは多彩で、カップにかけても、手に持っても使えます。機能性と美しさ、楽しさを併せ持った道具を日々手にすることで、暮らしにひとときの安らぎを与えてくれそうです。
左・手付きの茶こし2種と、コーヒードリッパー。茶こしは取っ手をフックなどに掛けて保管できる。右・基本の六ツ目編みの六角形の中に、それよりも巾の細い2種のひごを差し込み、美しい花文様を表したコースター。ひごの巾を揃えること、編み目の大きさを揃えて編むことが大切。竹籠作りは、竹を割り、へぎ、竹ひごを作るところから始まる
手前は「しぼります網代編み弁当箱」。岡さんの夫が10年ほど使っているもので、皮目の裏側が濃い茶色に変わり、文様が浮き出てきた。中央は「交色花刺し重ね六ツ目弁当箱」。白竹で表した花文様を黒竹の縁取りで引き立てている。身は網代編み。奥は透けるように花文様を表した「花刺し六ツ目弁当箱」。身は網代編み。弁当箱2万2000円~。竹が自生しない北海道で生まれ育った岡さんは、職人に憧れて京都伝統工芸専門学校に入って竹工芸を学び、そこで講師を務めていた石田竹美斎氏のもとで5年間修業。その後独立し、現在は京都南部、宇治田原町の自宅の一角に作った4畳半ほどの土間で制作をしています。
「材料となる竹さえ買ってくれば、最初から最後まで自分一人でできるところが竹工芸の魅力です」と岡さん。
油抜きした真竹は節の上下を鋸で切り、鉈なたで細く割り、皮の裏側を小刀でへいで薄くし、2本の小刀の間を通してひごの巾を揃え、さらに裏を削って厚みを揃え、なめらかな手触りになるよう面取りする――。
「簡単そうに見えるかもしれませんが、実はそうでもないんですよ(笑)」。その竹ひごを水につけて柔らかくし、編んでいきます。
食パン2斤がちょうど入る大きさに作ったパン籠。六ツ目編みに花刺しの文様が美しい。ひごを作る丸太の作業台の上で。家に竹製品がない、竹に触ったことがない、洗えないと思っている人もいる中で、岡さんは一人でも多くの人に家庭で竹の日用品が使われることを願い、日々竹と向き合っています。手仕事なので、同じ器でも一つ一つ表情が微妙に異なり、また自然素材である竹は、使うほどに手になじみ、風合いが増し、
写真の下の弁当箱のように、使い込むうちに色が変化するのも魅力です。
下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 撮影/内藤貞保
『家庭画報』2022年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。