文=阿川佐和子(作家)
南果歩さんが癌にかかったとき、ある医師に「キャンサーギフト」という言葉を教えられたという。
癌にかかるのはつらく悲しいことだけれど、つらく悲しい日々の中にも、探せば必ずいいことがあるはずだ。
思いもかけず優しい人に出会えたとか、それまでさほど気にかけなかった空の青さやそよ風や木々の美しさに感動したとか。
コロナ時代になって不安なこともたくさんあったが、同時にゆっくり家族と向き合い、ゆっくり時間を過ごし、自然と触れ合い、たっぷり考えるときを持つことができた気がする。
そうでなければ現代人は相変わらず突っ走って欲をむき出しにしていたにちがいない。
『家庭画報』2022年11月号掲載。
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