松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」 ご著書『生物はなぜ死ぬのか』が大きな反響を呼んでいる小林武彦先生を訪ね、東京大学の本郷キャンパスへ。「今日はどんどん質問します!」と宣言した松岡さんから繰り出される質問の数々に、小林先生は言葉を尽くしてご回答。息の合ったラリーのように途切れることなく続いたやり取りは、深刻な話題に及んだときでさえ、前向きなメッセージを発信していました。
前回の記事はこちら>> 小林武彦先生のマンツーマン講義にご満悦の松岡さん。なじみの薄い生命科学の話も、先生が易しい言葉で解説されると親しみが湧いてきます。(松岡さん)ジャケット、シャツ、パンツ、ネクタイ、チーフ、ベルト、靴/紳士服コナカ東京大学 定量生命科学研究所教授/理学博士 小林武彦先生
小林武彦先生(こばやし・たけひこ)1963年神奈川県生まれ。九州大学大学院修了(理学博士)。基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、東京大学定量生命科学研究所教授(生命動態研究センター ゲノム再生研究分野)。生物科学学会連合の代表も務める。前日本遺伝学会会長。生命の連続性を支えるゲノムの再生(若返り)機構を鋭意研究中。『生物はなぜ死ぬのか』ほか著書多数。リフレッシュ方法は、週末のシュノーケリングと登山。人はなぜ必ず死ぬのですか?── 松岡さん
「生物の進化のために、そういうふうにプログラムされているからです」── 小林先生
松岡 先生、人は、生物はなぜ必ず死ぬのでしょうか。
小林 最初からそうプログラムされているからです。
松岡 それは誰が決めたんですか?
小林 偶然としかいいようがないんですけどね。生物の誕生をまず考えると、最初はRNAという物質だったんです。これがなかなか器用で、自分で増えたり、形を変えたりしながら、「作っては壊し」を繰り返し、よく増えるものが残り、進化していった。そして、より安定性のいいDNAになり、生物誕生の基礎を作り、今にいたるまでつながっている、というわけです。
「これまでにない質問の連続で非常に面白かったです」と小林先生にいわしめた松岡さん。取材は東京大学 定量生命科学研究所の会議室「DNA」で行われました。松岡 壊したことで進化し、僕らがいる。失礼を承知で伺いますが、それはゆるぎない事実なんですか?
小林 合理的な説明の1つだと私は思います。生物は変化して選択されながら、単純なものから複雑なものへ進化してきました。その進化に必要なのが多様性で、多様な生きものの中でその環境に適したものが生き残り、ほかは死ぬ、ということが繰り返されてきたのです。そう考えると、過去の無数の生きものの死の上に我々は生きているわけで、死は生を支えている。進化の歴史の中で、自分の死も次の生につながっていると考えると、ちょっと前向きになれませんか。
松岡 はい。そんな大きな視点で死を捉えたことはありませんでした。
小林 6500万年前にユカタン半島に隕石が落ちて地球上の生物種の7割が絶滅し、恐竜の時代が終わりました。それは恐竜にとっては悲劇かもしれませんが、見方を変えれば、恐竜の死のおかげで哺乳類が進化して今の我々がいる、といえます。