T細胞、B細胞
「NK細胞が前線で、侵入した異物に最初の攻撃を与える“おまわりさん”だとしたら、後方でもっと強力にミサイルを撃ったり地上戦を展開したりする“兵士”のような立場がT細胞。同時にT細胞は、B細胞にミサイル(抗体)を作れと命じる係も受け持ちます。加齢によって活性が低下するNK細胞とは異なり、これらは100歳になっても強いままです」(奥村先生)。
T細胞は、胸腺(thymus)で分化、成熟することからTのつく名称に。B細胞は骨髄(bone marrow)で作られることから名づけられた細胞。「B細胞は、一度処理した異物に関する情報を記憶するため、同じ人が再び前と同じウイルスに感染したりすると、ただちに抗体を作ってその異物に対抗します」(奥村先生)。これが「獲得免疫」と呼ばれるものである。
獲得免疫
「多くの感染症に対し、自然免疫の次に活躍するのが獲得免疫です。B細胞やT細胞が過去の感染を記憶した『記憶細胞』になると、以前感染した病原体に対し、抗体を作って、最初の感染より効率的に病原体を排除することが可能になります」(奥村先生)。
新型コロナ、インフルエンザなどのワクチンを接種する目的は、これら「記憶細胞」を誘導すること。ただし、「記憶細胞」は時間の経過とともに衰えるため、抗体は半減する。新型コロナのワクチン接種の数か月後に次のワクチン接種を受けることが推奨されるのも、このため。
集団免疫
厚生労働省ホームページ「新型コロナワクチンQ&A」をもとに作成。例えば新型コロナウイルス感染症の場合、ウイルスに対して、人口の一定の割合以上の人が免疫を持つと、感染患者から他の人に感染しにくくなり、流行の勢いがなくなっていく。これによって新型コロナウイルスに免疫を持たない人も間接的に感染から守られ、社会全体の感染者が減少することに。
この状態を「集団免疫」と呼ぶ。なお、新型コロナワクチンによる集団免疫の効果の有無は、現在のところわかっていない。
自律神経と免疫
白血球にはさまざまな免疫細胞があるが(
1ページの図)、主役はNK細胞などのあるリンパ球といえる。自律神経をコントロールするのは交感神経と副交感神経。「活動的なときは交感神経が優位になりリンパ球は減少します。反対にリラックスしているときは副交感神経が優位となり、リンパ球は増えます」(奥村先生)。リンパ球が増えると免疫力が上がると思われがちだが、実は増えすぎると体外から侵入する異物に過剰に反応し、アトピーや花粉症などのアレルギー疾患を引き起こしてしまう。活動とリラックスが適度な、すなわち自律神経のバランスのとれた生活が、免疫低下の防止につながる。
取材・文 嵯峨佳生子 撮影 田中 雅、柳原久子、本誌・大見謝星斗、伏見早織 イラスト いたばしともこ
『家庭画報』2022年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。