メディカルワードで知る体のメンテナンス法 最終回(全4回) 体のこと、病気や免疫のこと、日々新しくなるさまざまな情報にとまどっていませんか。今注目したいのは、全身の健康に関係がある「ゲノム」「免疫」「腸内環境」の3分野。その中で知っておきたいワードを各分野の先生に教えていただきました。
前回の記事はこちら>> 若々しい腸年齢を保つには?
若々しい腸年齢を保つためには腸内細菌の多様性が重要。そして腸内環境が弱酸性(ビフィズス菌や酪酸産生菌などの善玉菌は短鎖脂肪酸を作り出し、腸内環境を弱酸性に整えてくれる)であること。
食生活は地中海食(魚・ナッツ・豆類・全粒粉・オリーブオイルなど)や日本食(魚や豆類、さまざまな発酵食品など)を中心にして、適度な運動を取り入れることが大切。
解説と監修:内藤裕二先生京都府立医科大学大学院教授。専門は消化器病学、免疫栄養学、抗加齢医学、腸内細菌叢。日本酸化ストレス学会理事長、日本消化器免疫学会・日本抗加齢医学会理事、2025大阪・関西万博 大阪パビリオンアドバイザー。『人生を変える賢い腸のつくり方』など著書多数。シンバイオティクス
「プロバイオティクス」は、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌。「プレバイオティクス」は、善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖など。「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を組み合わせて、善玉菌を効果的に増やす食事法を「シンバイオティクス」と言う。この食事法は腸内フローラのバランスを整えてくれるので、効率よく栄養を取り込めるようになる。便秘や下痢の改善や糞便の悪臭物質を低減してくれる。
善玉菌を増やす食事法「シンバイオティクス」
腸内フローラのバランスを維持するためには「シンバイオティクス」の食事法がおすすめ。酪酸産生菌
「乳酸菌でもビフィズス菌でもない。長寿を叶える最強の善玉菌は酪酸菌なんです。京都府京丹後市で高齢男女の食生活を調査する中で実感しています」と内藤先生。
「京丹後長寿コホート研究」を通じて酪酸産生菌(通称酪酸菌)の強さを感じたという。乳酸菌は熱や酸、抗生物質などに弱く、摂取しても大腸まで届かないことが多いが、酪酸産生菌は阻まれることなく大腸に届く善玉菌。食物繊維やオリゴ糖を摂ると酪酸菌が増えて、その酪酸菌が腸内環境を改善し、腸の蠕動運動を促す。
SIBO(シーボ)
小腸内で細菌が異常に増殖した状態。「小腸内細菌異常増殖症(SmallIntestinal Bacterial Overgrowth)」といい、細菌数は通常の約10倍にもなるといわれる。おなかが張る、下痢、便秘、腹痛、ガスが溜まるなど、過敏性腸症候群と似た症状が多く、SIBOが過敏性腸症候群を引き起こすか、その逆もあると見られている。食物が小腸内で発酵して過剰なガスが発生し、腹部膨満、ゲップ、腹鳴を引き起こすと考えられているが、まだ詳しくは解明されていない。
糞便移植
腸内フローラが乱れて生じる疾患に対し、健康な他人の糞便に含まれる腸内細菌を移植して改善を図ること。腸内フローラの乱れとは、多くは菌の多様性が失われること。
善玉菌、悪玉菌にかかわらず、わずかな種類の菌だけが増殖したり、抗生物質の投与で多くの腸内細菌が死滅したりすると、バランスが崩れて疾患を引き起こす。糞便移植は欧米では主に再発性偽膜性腸炎の治療に、また日本でも慢性の炎症または潰瘍を引き起こす疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病、SIBOなどに対して臨床研究が行われている。
「自分の若い頃の便を保存しておいて(便バンク)、若返り研究にお金を出す例が海外には多い。アンチエイジングのために日本でも将来一般的になるかもしれませんね」(内藤先生)。
腸脳相関
腸と脳は、相互の情報伝達により影響を与え合っているという概念。以前は、ストレスや緊張から下痢や腹痛を起こすという例に基づき、脳から腸という「脳腸相関」の語が主流だったが、現在は腸内環境が脳に与える影響が多くの研究で注目されている。
「アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経疾患に、腸内フローラがどんな影響を与えているかは、今後も注目されます」(内藤先生)。
腸年齢
「実年齢60歳でも腸年齢は40歳ということもあります。腸年齢は知っておくほうがいい」と内藤先生。インターネットで「腸年齢」「チェック」と入力して検索すれば、製薬会社や医療機関などの「腸年齢チェック」サイトが見つかる。ほとんどが生活習慣、食生活、大便の3ジャンルの質問に答え、最後に判定というもの。いい判定が出ても油断せず、良好な腸内環境を維持することが重要。
アッカーマンシア菌
アッカーマンシア菌は腸の粘膜を守る層を厚くし、バリア機能を高める働きを持つ注目の善玉菌。カーター元米大統領が悪性黒色腫で余命3か月という宣告を受け、新しいがん治療薬によって生還を遂げた際、腸内にアッカーマンシア菌があったから薬が効果を発揮したのではと注目された。この菌を含む糞便移植でマウスの寿命が延びたという研究報告もある。糖尿病の治療にも有効な菌であると国の内外で期待されている。
エンテロタイプ
腸内フローラは菌の多様性が重要だが、構成比は人によって異なる。「菌の構成が似たものをグルーピングして定義したのがエンテロタイプです。遺伝ではなく、風土や食生活などの生活環境が近い場合に構成が似るようになります」(内藤先生)。
Aのエンテロタイプには糖尿病患者が多く、Bのエンテロタイプには少ないなど、エンテロタイプ別に疾病の種類を見て、腸内フローラと健康の関係を探ることができる。
京都府立医科大学、摂南大学、プリメディカの三者共同研究によるデータベースを用いた腸内フローラ検査サービス「Flora Scan®(フローラスキャン)」。日本人約2000名のデータをもとに、日本人に特化した腸内フローラの分類を行い、生活習慣病や疾患との関連性をタイプ別に評価。大阪府枚方市ふるさと納税返礼品としても人気。医療機関での取り扱いの場合、価格は2万円前後。お問い合わせ/プリメディカ TEL:03(5776)1105 取材・文 嵯峨佳生子 撮影 田中 雅、柳原久子、本誌・大見謝星斗、伏見早織 イラスト いたばしともこ
『家庭画報』2022年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。