『唐茄子屋 不思議国之若旦那』
左・中村かなめ(なかむら・かなめ)1976年生まれ。2000年国立劇場第15期歌舞伎俳優研修修了。2001年4月に3代目中村扇雀に入門し、中村扇一朗を名乗る。2015年歌舞伎座『廓文章』の太鼓持四郎八ほかで初代中村かなめを名乗り、名題昇進。右・中村いてう(なかむら・いちょう)1981年生まれ。2000年国立劇場第15期歌舞伎俳優研修修了。2001年4月に5代目中村勘九郎(18代目中村勘三郎)に入門し、中村いてうを名乗る。2015年平成中村座『魚屋宗五郎』の小奴三吉ほかで名題昇進。平成中村座初となる新作歌舞伎『唐茄子屋』は、古典落語の『唐茄子屋政談』をベースにした人情喜劇で『不思議の国のアリス』の要素も入ってくるという斬新な内容だ。
脚本と演出を手がけるのは宮藤官九郎さん。今回はさまざまな作品で名コンビぶりを見せてくれる中村かなめさんと中村いてうさんが新作への案内役を務めてくれた。
「大筋は人情噺なんですが僕たちが演じる場面は落語の『鈴振り』がもとになっていると思うんです。本編とは一線を画していて、役が決まった際には(中村)七之助さんから“3人(かなめさん・いてうさん・中村鶴松さん)の役はいちばん難しい役だから”といわれました。下ネタなので塩梅が難しく、確かにそうだなと思いました。でも性的な言葉を直球で入れたことで、芝居小屋の空間で江戸の世界観や雰囲気に近いものを楽しんでもらえるのではないでしょうか。例えば歌舞伎十八番の『鳴神』を初めて観た江戸時代の人もきっと生々しい表現だと感じたと思うんです」といてうさん。
かなめさんも同じ場面を「読み合わせで(中村)勘九郎さんは“妄想を抱くけど行動はできない中学生のイメージ”とおっしゃっていたので、そのかわいらしい感じでできればと思います」と語る。
渋谷・コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』より。こっぱの権(右・中村かなめ)となまこの八(左・中村いてう)。2021年5月、Bunkamura シアターコクーン。ⓒ松竹本編の見どころについて、いてうさんは「今回は唐茄子を売るという客席とコミュニケーションをとる場面があるので楽しんでいただきたいです。そして、やっぱり人情噺なので冒頭で死のうとしていた最弱な若旦那が人として成長していく中で、いろんな人の世話になり、たくましくなっていく過程を楽しんでいただきたいですね」と語った。
「現代でも身近なところで起きそうな出来事に、人間の心の変わり様や心情の描き方というものを宮藤さんの言葉で表現されていて、とてもわかりやすく喜怒哀楽がきちんと描かれています」とかなめさん。
本作で、江戸の芝居小屋で新作が生まれたときの感覚をぜひ体験していただきたい。
今月の歌舞伎
【平成中村座】
猿若町発祥180年記念
平成中村座 十一月大歌舞伎
~2022年11月27日(21日は休演)
●第一部 11時開演
一、『寿曽我対面』 二、『舞妓の花宴』 三、『魚屋宗五郎』
●第二部 15時45分開演
一、『唐茄子屋』 二、『乗合船恵方萬歳』
松席(1階平場席)1万5000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489
【歌舞伎座】
市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 八代目市川新之助初舞台
十一月吉例顔見世大歌舞伎
江戸時代から続く市川團十郎の名跡が9年ぶりに復活する。出演は市川海老蔵改め13代目市川團十郎白猿、8代目市川新之助/尾上菊五郎、松本白鸚、片岡仁左衛門、中村梅玉、坂東玉三郎(2022年11月22日~28日)ほか。
~2022年11月28日(21日は休演)
26日(昼の部)は貸切
●昼の部 11時開演
一、『祝成田櫓賑』 二、歌舞伎十八番の内『外郎売』 三、歌舞伎十八番の内『勧進帳』
●夜の部 16時開演
一、歌舞伎十八番の内『矢の根』 二、襲名披露『口上』 三、歌舞伎十八番の内『助六由縁江戸桜』
1等席 2万3000円ほか
チケットホン松竹:0570-000-489 表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン
『家庭画報』2022年12月号掲載。
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