《縄文人》岡本太郎 作神奈川県・矢向の温泉施設「志楽の湯」に置かれた岡本太郎による縄文人の像。「志楽の湯」を運営するグループダイナミックス研究所の代表である栁平 彬氏が太郎を訪ねて制作を依頼したところ、太郎は既に縄文人の原型の像を作っていたという。
太郎と縄文人
文=小林達雄(考古学者)
縄文人の残したものは現代の芸術家にも影響を与えた。かの有名な岡本太郎もその一人だ。縄文土器と睨めっこを続けていた太郎は、やがて背後に控える本家本元の縄文人に目を向けるようになった。
縄文人も人の子とは言い条、筋骨隆々の偉丈夫あるいは見目麗しい穏やかな顔立ちではないと太郎は考えた。
はるか昔の私たちの祖先は既に、我の張り詰めた独自の個性と創造性を心の内に秘めていた。その得も言われぬ力強さこそが縄文人の正体だと、太郎はこだわり、それを形にした。
ニューヨークの自由の女神のように、縄文人が東京湾にすっくと立ちあがる姿を夢見ていると周囲に漏らしている。
ゼペット爺さんが世に送り出したピノキオが自分の意志で動き回ったように、太郎の縄文人も何かとんでもないことを始める気がしてならない。
『家庭画報』2022年12月号掲載。
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