驚きと感動の“美味逸品” 第2回(全29回) 料理は、言葉より雄弁にその国のことを物語ります。駐日大使公邸のおもてなしを拝見し、世界各国の料理をレストランで楽しみ、珍しいスパイスやハーブに出合える食材店を巡る――私たちの周りにたくさんある“日本の中の外国”へご案内します。
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ユネスコ無形文化遺産の美味で祝うクリスマス
格調高い金糸刺繡のドレスでご登場くださったプリーア大使。クリスマスランチのテーブルセッティングは、メキシコ国旗の色を取り入れた「レボソ」(ショール)の装飾が華やか。ランダムに飾られたポインセチアや松ぼっくりが楽しい集いを予感させる。大使館の冬のおもてなし
国内外からさまざまなゲストを迎え、おもてなしをする世界各国の駐日大使。大使公邸のダイニングには、料理や器などを中心とした食文化だけではなく、インテリア、季節ごとの飾りつけも含めて、その国が現在まで培ってきた歴史、文化が表現されています。メキシコの駐日大使に、そのお国ぶりを存分に発揮したおもてなしのテーブルをご披露いただきました。
家族、友人、近所の人々と毎日のように集う12月
伝統の農法や調理技術、儀式と結びついた食文化の継承などが評価され、2010年にユネスコ無形文化遺産に登録されたメキシコ伝統料理。とうもろこしと豆、唐辛子を中心とした多彩な料理で知られ、日本でも近年、レストランの開業が相次いでいます。
「私たちメキシコ人は日本人と一緒で食べることが大好きです。クリスマスの一番の楽しみも、家族や友人たちとテーブルを囲んでおいしいものを食べること。それもたくさんね」。
目を輝かせて語る駐日メキシコ大使のメルバ・プリーアさんによると、母国のクリスマスは「ポサダ、クリスマス、三賢者の日」からなり、長期にわたります。
[駐日メキシコ大使]メルバ・プリーアさんメキシコの首都、メキシコシティ生まれ。大学で社会学士号を、大学院で公共政策と国際学の修士号を取得。また、国家安全保障および戦略的研究を学ぶ。SRE (メキシコ外務省)での長いキャリアを有する。2007~15年に駐インドネシア大使、15~19年に駐インド大使を務め、19年6月より現職。12月16日から9日間続く「ポサダ」は、イエスを身ごもったマリアがヨゼフとともに宿(ポサダ)を求めて歩き、ついに泊まる場所を得たことを祝う行事。近所の人々と交代で招き合い、伝統の歌を歌い、子どもたちはくす玉に似た「ピニャータ」を割るゲームに興じ、食事やお茶をともにします。24日は豪華なディナーに舌鼓を打つ日。「メキシコ人は賑やかなパーティが好きなので、踊り明かす人たちもいます」と大使は楽しそうに話してくださいました。
たっぷり用意したご馳走の残りが中心となることから、「レカレンタード(温め直したもの)」と呼ばれるのが、25日のクリスマスランチ。大使曰く「なぜか翌日のほうが一段とおいしいんです」。
手前から・小さく切ったりんごやぶどう、くるみなどをヨーグルトとはちみつであえた「クリスマスのフルーツサラダ」。「スパイスの利いた料理の間にいただくのにぴったりの爽やかな味わいです」と大使。干鱈を酢漬けの青唐辛子やパプリカ、玉ねぎ、トマトなどと煮込んだ「干鱈のビスカヤ風」はスペイン伝来の料理。メキシコ原産のマイルドな青唐辛子「ポブラーノ」がピリッと利いたクリームソースの「グリーンパスタ」。お供にはメキシコ産のスパークリングワインを。年が明けても、メキシコのクリスマスは終わりません。1月6日の「三賢者の日」は、イエスの降誕13日目に三賢者が贈り物を持って訪れたことに由来する祝日。子どもたちにとってはプレゼントがもらえる嬉しい日です。
この日必ず食べるのが、リング状のパン「ロスカ・デ・レジェス」。中に赤ちゃんのイエスをかたどった人形がいくつか入っており、それに当たった人は2月2日に伝統食「タマーレス」を周囲に振舞うのが決まり。クリスマスの物語はなんと2月まで続くのです。
「タマーレスは日常でも食べますが、多くの料理はクリスマスだけのもの。『クリスマスのフルーツサラダ』のように簡単に作れるものも、普段は作りません。大切な祝日に大切な人たちと食べることに意味があるからです。私たちには『クリスマスは誰も一人にしない』という不文律がありますが、きっと日本のお正月と同じですね」。
手前から・豊かなソース文化を持つメキシコの伝統的なクリスマス料理で、チョコレートや唐辛子などで作る濃厚な「モレ・ソース」とともにいただく「豚もも肉のロースト」。付け合わせはほんのり甘い「スイートポテトのピュレ バニラ風味」。カカオ、唐辛子、バニラはすべてメキシコ原産。聖書の物語とともに味わう伝統のご馳走
イエス・キリストの降誕「ナティビティ」の場面を表すセット。国民の8割がカトリック教徒のメキシコでは、一家に一つはあるクリスマスの装飾品だ。「12月上旬には飾りますが、赤ちゃんの人形だけ24日にするのが伝統的なスタイルです」とプリーア大使。下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 【イベント案内】在日メキシコ大使館にて メキシコの食文化に触れる会
撮影/阿部 浩 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。