“必然”として起きたことは受け入れるしかありません
50代くらいの方であれば、子どもの独立や親の介護、夫や自身の定年など、環境の変化が大きく、自分のことや家族、職場での悩みなどで心が折れてしまうことも。そんなとき、心を持ち直すにはどうすればよいでしょうか。
「『起きることは起き、起きないことは起きない』という言葉の意味を深いところまで理解できれば、すべての問題は解決します。今後生きていくうえで、あなたの最高のお守りになるでしょう。人間の苦しみの根元は、『まだ起きていないことを、起きてほしいと願う』、あるいは『すでに起きてしまったことを、起きないでほしかったと思う』ことから生まれます」
小池さんも過去、別れたくない人との離別を経験。長く生きていれば、多くの人が、忘れられない人との離別を経験していることでしょう。
「『あのとき、ああしていれば』『あのとき、ああ言わなければ』、違う結果になっていたのにと思いがちですよね。でも、過去にあなたがいくつかの選択肢の中から、“選択肢A”を選んだとします。そのときのあなたの性格や環境、『こうしたい』『あれはいやだ』という感情からAを選んでいるので、今またその瞬間に戻ったとしても、やはりAしか選べないのです。たとえ、『Bを選んでおけば違う結果になったはず』と思っても、無駄です。必然において起きたことは受け入れるしかありません。離別しないで済んだ、という可能性は皆無です。ですから、悲しんだりひきずったりしても仕方ありません」と軽やかに語ります。
仏の道では「執着=こだわり」を手放すことでこそ、人は幸福になれると説いています。「ああすればよかった」と後悔するのではなく、もし、あなたが“馬から落ちてしまった”と感じるのなら、「ま、いっか」と考え、何事もなかったように、再びひらりと馬に飛び乗ればいいのです。
究極的に心を立て直す、もしくは安定した気持ちを常に保っていられるようにするためには、座禅がもっとも有効な方法だと小池さん。
「平常心を獲得できれば自分のことや周囲の人、物事をありのままに観察できます。さらに、それまで心の奥底に溜め込んでいた、自分でさえ忘れていた過去のわだかまりや負の感情も浄化できます。ただ、相当鍛錬しなければ獲得できない境地です。“身体の行”としてのトレーニングを積み、宇宙とつながる感覚を得て、気が自分の体を通り抜けていくことを体得する必要があります。それさえできれば、あなたはあらゆることに悩まなくてよくなりますよ!」
小池龍之介/Ryunosuke Koike
1978年生まれ、山口県出身。正現寺(山口県)住職、月読寺(神奈川県)住職。東京大学教養学部卒業。2003年、ウェブサイト「家出空間」を立ち上げる。 現在、正現寺と月読寺を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。 近著は『こだわらない練習「それ、どうでもいい」という過ごしかた』(小学館刊)。ほかに著書多数。
「zazen session」として、月読寺と正現寺にて定期的に座禅指導を行っています。日程など詳しいことは、小池さんが主宰しているウェブサイト「家出空間」(
http://iede.cc)を参照ください。
『ときめき』は50代以上の知的好奇心旺盛な女性に向けた季刊の雑誌です。そこが知りたかった、いまさら人に聞けない……という悩みに明快にお応えする一冊です。 別冊家庭画報『ときめき』 2015夏号