エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2022年12月号に掲載された第17回、鳴戸勝紀さんによるエッセイをお楽しみください。
vol.17 日本で出会った和菓子たち
文・鳴戸勝紀
小さな頃からずっと、食べることは大好き。特に甘いものが好きでした。
作るのも好きだったので、小学生の頃はケーキ屋さんになることを夢見たこともありました。いつも苦労をかけていた母へ、お礼にケーキを焼いたこともあります。私が生まれ育ったブルガリアのお菓子といえば、クッキーかケーキ。ケーキはシンプルなスポンジで、それに少し生クリームをかけて……。時代もあったと思いますが、そこまで多くの種類はありませんでした。レスリングを始めると体重制限をするので、甘いものは遠い存在に。たまにご褒美として食べる特別なものになりました。
お相撲さんになるために日本に来てからは、体重制限はなく、むしろ食べたほうがよいくらいでしたから、甘いものもたくさん食べるようになりました。でも最初に和菓子を見たときは、まさかそれが食べ物だとは思えなかったのです。確か、羊羹でした。芸術品のように繊細で。きれいすぎて、食べられるものなのか、飾ってあるものなのか、わからなかったのです。恥ずかしくてお店の人にも聞けず、そのまま帰ってしまいましたが、和菓子は食べるだけのものではないと感じた最初の出来事でした。
日本で衝撃的だったもの。それはあんこです。豆を甘く煮ることは、それまでの私の常識では考えられませんでした。でも、私の故郷・ブルガリアでは、日本人の主食である米を使ったデザートがあります。米を牛乳で煮て、砂糖を入れ、シナモンをかけて食べるもので、もしかすると日本人にはなかなか馴染めないかもしれません。似ていると思いました。あんこといっても、つぶ餡、こし餡、白餡……いろいろ種類があって、面白い。少しずつ受け入れて、今は食べられるようになりました。
今は日常で和菓子を食べることもあります。子どもも好きなのはフルーツの入ったお餅。マスカットなどが丸のまま包まれていて、味はもちろんですが、見た目も本当に美しい。和菓子には、職人の技が、一つ一つに込められている。日本人の繊細さは、お菓子にまでも表れているのだと思います。
鳴戸勝紀元大関琴欧洲。ブルガリア出身。2002年に来日、佐渡ケ嶽部屋に入門。同年十一月場所で初土俵を踏み、04年九月場所で新入幕を果たす。14年三月場所で引退。537勝337敗63休。優勝1回殊勲賞2回敢闘賞3回受賞。15年2月、年寄・鳴戸を襲名。17年4月、鳴戸部屋を創設。ヨーロッパ出身の力士としては初の師匠となり、後進の指導に当たっている。