天野惠子先生のすこやか女性外来 第7回(02) 「女性たちにこそ、糖尿病の怖さを知ってほしい」と天野先生は声を大にして呼びかけます。女性の糖尿病は、男性よりも高いリスクで心臓や脳の重大な血管疾患を引き起こすからです。更年期以降、血糖値は、症状のないまま徐々に上がっていきます。さっそく健康診断の結果の血糖値を確認してみましょう。“少し高め”でも油断は禁物です。
前回の記事はこちら>> 糖尿病に“性差”があることを知っていますか?
心筋梗塞や狭心症のリスクを高める女性の糖尿病
天野惠子(あまの・けいこ)先生静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。女性の糖尿病が血管に及ぼす影響は大!
初期の糖尿病は無症状が多いが、進行すると喉が渇く、疲れやすい、トイレが近い、体重が減るなどの症状が現れることがある。糖尿病とは──
インスリンが十分に働かず血液中の糖が増える病気
食事をすると栄養素の一部が糖となって腸から吸収され、血液の流れに乗り、インスリン(膵臓から出るホルモン)の働きで臓器や組織の細胞に取り込まれます。インスリンの量が減ったり働きが低下すると糖は取り込まれず、血液中に溢れて高血糖になります。
糖尿病には主に遺伝的要因でインスリンが出にくくなる1型糖尿病と生活習慣の影響も加わる2型糖尿病があり、悪化すると動脈硬化が進み、網膜症、腎症、神経障害など合併症の原因にもなります。
糖尿病は血糖値(空腹時血糖値とOGTT)とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー/血液中のヘモグロビンに糖が結合している割合。過去1~2か月分の血糖値の平均)で判断される。空腹時血糖値が100~109mg/dl、HbA1cが5.6~5.9パーセントの場合は将来糖尿病を発症するリスクが高い「正常高値」となる。エストロゲンの分泌が減ると上がり始める血糖値
糖尿病が忍び寄る
女性ホルモンのエストロゲンには、内臓脂肪から分泌される善玉ホルモン(アディポネクチン)を増やし、インスリンの働きを高める効果があります。また、膵臓のインスリン分泌細胞の作用を助け、肝臓からの糖の放出を抑える働きもあります。
このように更年期前の女性はエストロゲンによって血糖値の上昇が抑えられていますが、更年期以降、血糖値は下図のように徐々に上がり、正常高値や境界型(いわゆる糖尿病予備軍)の域に近づいていきます。
●加齢に伴う空腹時血糖値の変化(男女比較)
50歳頃から女性の血糖値は徐々に上がる
千葉県22市町村基本健康診査(平成15~18年度。男女合わせて延べ36万6862人のデータ)の結果より平成18年度の数値を取り出してグラフ化(千葉県基本健康診査データ収集システム確立事業)。女性の糖尿病は、心血管疾患発症のリスクを高める
急性心筋梗塞を引き起こす危険因子は男性が「高血圧・喫煙・糖尿病」の順で高いのに対し、女性は「喫煙・糖尿病」。関与の度合いも男性より大きいことがわかっています。また糖尿病の女性の脳梗塞発症率は糖尿病でない人の約2.6倍、虚血性心疾患は約4.6倍。
さらに下図のように冠動脈性心疾患や脳卒中の発症率は糖尿病でない人に比べて明らかに高く、男性より女性のほうがその差も顕著です。
●糖尿病の心血管疾患発症へのリスク
糖尿病の女性は心臓や脳の病気を起こしやすい
Atherosclerosis 261:124-130,2017(JACC Study)
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
https://joseigairai.online/YouTube
「女性外来オンラインチャンネル」はこちら>> 撮影/鍋島徳恭 イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。