専門医に聞く 今、気をつけたい病気 第12回(02) ほとんどの人が経験のある虫歯(う蝕)とその治療。進行すると歯の根の治療(歯内治療)が必要となります。今回は、大人の虫歯、特に歯内治療について、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔機能再構築学講座歯髄生物学分野 教授の興地隆史先生に伺います。
前回の記事はこちら>> 〔解説してくださるかた〕東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
口腔機能再構築学講座 歯髄生物学分野 教授
興地隆史(おきぢ・たかし)先生
●前回の記事
大人こそ気をつけたい「虫歯」の原因やメカニズムは? 注意すべきポイントを解説虫歯が中の神経に達すると、痛みが増し、顔が腫れることも
●歯の構造
歯は一番外側のエナメル質が最も硬い。エナメル質では口腔内の酸性度によってカルシウムなどのミネラルが溶け出すが、唾液が酸を中和し、ミネラルが再吸収されて石灰化する。歯髄には血管と神経があり、歯に栄養を与え、歯の知覚を司っている。虫歯は、その程度によって、(1)エナメル質のごく表面の虫歯(C0)、(2)エナメル質の中に留まる虫歯(C1)、(3)象牙質に至る虫歯(C2)、(4)歯髄に達する虫歯(C3)、(5)歯を抜かなければならない虫歯(C4)の5段階に分けられています。虫歯がどこまで進行しているかは問診、視診、器具を用いる触診、X線検査などで調べます。
●加齢に伴って増える根面(こんめん)う蝕
加齢や歯周病、ブラッシングのしすぎなどで歯肉が下がるとセメント質が露出する。セメント質はエナメル質に比べると軟らかく、酸に溶けやすいため、虫歯になりやすい(左ページコラム)。治療がしにくい歯の根元の虫歯(根面う蝕)
年齢を重ねるにつれリスクが上がるのが歯の根元の虫歯(根面う蝕)です。きっかけは歯肉が下がり、歯の側面の軟らかいセメント質が表面に出ること。また、唾液の減少も関係します。
「歯と歯の間に発生した場合は削りにくく、適切に詰めるのも難しい場合があります」。根面う蝕が歯髄にまで進行した場合、咬合面(上下の歯が嚙み合う部分)から歯内治療をすることになります。
「ラバーダムの装着が難しく、虫歯ではない、あるいはきれいに治療されている咬合面を削らねばならず、削除量が多くなってしまいます。虫歯が深くないときはフッ素を塗って進行を止め、経過をみる場合もあります」。
根面う蝕はオーラルケアや歯科でのフッ素の塗布などで予防したいものです。
C0やC1のエナメル質の虫歯であれば自覚症状はありません。C2の象牙質に至る虫歯では冷たいものがしみたり、ときどき痛みを感じたりすることがあります。
歯髄に達したC3では飲食物がしみて痛みが強くなり、何もしていないときにも痛みが出ます(歯髄炎)。
さらに歯髄が破壊され、歯根(根尖/こんせん)に根尖性歯周炎が生じると歯肉の腫れ、膿、ときには顔の腫れまで伴うことがあります(下画像参照)。こうなると歯髄を取り除く処置や歯髄が入っている根管の中をきれいにする処置(歯内治療)が必要になります。
●歯髄まで達する3度(C3)の虫歯に生じた歯根先端の炎症(根尖性歯周炎)
虫歯が歯髄に達すると炎症が起こり、歯内治療が必要になる。外から細菌が入りやすくなり、感染によって歯髄が破壊される。膿が歯根の先端にたまることもあり、この状態になると痛みや歯肉の腫れをしばしば伴うが、症状のないこともある。