漢方の知恵と養生ですこやかに 第12回(02) 何かと忙しい年末は疲れがたまり、気も焦り、精神的に不安定になりがちな時期。特に一年で最も夜の長い冬至は、陰気が強く、人の気にも影響を与えます。生活リズムを整え、体を温めて「食べる・眠る・動く」を実行する――。健やかに一年を締めくくるコツも、ごく基本的な養生の励行にありました。
前回の記事はこちら>> 〔解説してくださるかた〕横浜薬科大学客員教授・薬学博士 漢方平和堂薬局店主 根本幸夫先生
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冬の落ち込みと不眠は、「気」の不足と「血」の滞りから>>まずは生活リズムを整えて。ゆず湯で心もリフレッシュ
食べる、眠る、動く。本能を刺激する生活を
気持ちを上向かせるには、生活リズムを整えることが基本です。就寝時間と起床時間を一定にし、食べられそうなものや好物を口に入れ、短時間でも外を歩いたり体を動かしてみる――。「何々しなければ」と頭で考えるのでなく「食べる、眠る、動く」という本能をくすぐる行動を起こすことでエネルギーの大本である気が刺激されて動き始め、元気を取り戻すきっかけになります。
布団の中で足や下腹が冷えると血が頭に上り眠りが妨げられるので、下半身を温めて頭の血を末端に下ろし頭を軽くしましょう。おすすめは湯たんぽ。電気あんかのように肌を乾燥させるようなピリピリした刺激ではなく、柔らかく自然な温かさが心地よい眠りをもたらします。
気血を巡らせる入浴。心の安定は漢方薬の得意分野
水に熱が加わると湯となり、「産湯」「湯治」などの言葉が示すように何かを清めたり活力を与える効力が加わります。入浴には不浄を取り、体を温めて血の巡りをよくし、気力を増す効果があります。冬至にゆず湯に入ると体がぽかぽかと温まるのはもちろん、柑橘系の香りで精神がリフレッシュすることも実感でき、理に適った風習だといえます。
漢方薬局で売っている粉末状の薬湯を用いたり、ヨモギや干葉(ひば=干した大根の葉)を湯に入れるだけでも体の芯まで温まり、湯冷めしにくくなります。
気持ちの落ち込みを解消するのは漢方薬の得意分野です。朝起きられない人は寝る前に小建中湯(しょうけんちゅうとう)を。女性の生理に関係した精神的不調には加味逍遙散(かみしょうようさん)、あるいは桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん=瘀血を解消する)と半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう=気を動かす)を合わせて処方します。イライラや怒りの感情が強い場合は抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)。悪夢が多くてよく眠れないときは桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)を用います。