現代アート、才気発掘 第3回(全6回) 鑑賞することと、所有することとでは、アートの見える景色が違ってきます。“アートを自分ごと”にするための近道は、まず本物の芸術作品を所有してみること。アートをもっと身近なものにするために、新進気鋭のアーティストに注目し、発掘、そしてサポートしていく楽しさを紹介していきます。
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品川 亮(1987-)
美術家やコレクター、ギャラリストから今、熱い眼差しを集めている気鋭の作家たち。彼らの制作に対する想いや、作品に託した「問い」について伺うべく、“未来の巨匠”のアトリエを訪ねました。
琳派・狩野派などの様式から「日本の絵画」を世界に向けて再構築する
京都のアトリエにて。ホワイトキューブでの作品の見え方を認識するため、壁を白く塗った。品川 亮/Ryo Shinagawa1987年大阪府生まれ。京都を拠点に活動する。箔や岩絵具などの素材、狩野派や琳派の様式といった伝統的な「日本の絵画」に新しい技法を加えることによって、その可能性を追求している。“日本の絵画の上に成り立つコンテンポラリーアートはどんなものか。僕が見たくて描いている”
狩野派や琳派を彷彿させる作品。しかし、そこに描かれた花にはどこかモダンな印象を感じます。品川 亮さんが追求するのは「日本の絵画」。もともとイタリア美術が好きで欧州に留学した品川さんは、異国の地で日本美術を見つめ直すことになりました。
「僕は『日本画』と『日本の絵画』は別物だと考えています。『日本画』は明治時代に西洋画が入ってきて、美術学校ができた頃に生まれたいわゆる“制度の中の絵画”。『日本の絵画』はそれ以前のもの、というのが僕の考えです」。
そこで狩野派や琳派などに立ち戻り、彼らが欧米の手法を加えながら現代に至るとどうなるか、シミュレーションを始めました。
「優れた芸術作品には、文化や歴史が表れている。そこで日本人の表現は何かと考えたとき、大陸から来た漢字を平仮名にするなどの“単純化”に着目しました」。こうして、花弁を一筆書きのように描く作品が誕生しました。
次に行ったのが海外の様式を取り入れる作業。「例えば印象派の作品には、画家がどのように手を動かしたのかという時間性が記録されている。それを取り入れたのが筆跡(ブラッシング)を残したシリーズ」。
その後も、セザンヌやピカソなどが残した様式を作品に落とし込んでいきました。「今は花の形を意識せず、絵具の質感だけで絵画を作る段階。分断された『日本の絵画』を現代に再接続したら最終的にどうなるのか、それが知りたくて描いています」。
外向きの箔と内向きの墨。2種の手法を追求し、新しい絵画表現に挑む
品川さんの主要な作品は、箔と墨の2種類。「箔は『日本の絵画』を研究しているシリーズで、外向きの矢印。墨は自分の感情や思い出などプライベートな部分を描いた、内向きの矢印のイメージです。バランスがとれているのかも」。
アトリエの玄関を入って最初にあるのが、墨で描かれた椿の掛け軸。「水墨画はモノクロームで色が限られていますが、その不自由さが日本人には大事だったのでは。例えば、和歌は31文字、巻物は33cmと、制限された中で楽しむことが日本人の芸術表現につながっている気がします」
光によって色が変わる金箔は「自分が動くと絵も変化して見える、そういう体験を楽しむ装置」。同様の作用がガラスにもあると思い、試作した作品。
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https://www.shinagawa-ryo.com/ 撮影/本誌・西山 航
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。