見つける愉しみ、育てる愉しみ「現代アート、才気発掘」 第4回(全6回) 鑑賞することと、所有することとでは、アートの見える景色が違ってきます。“アートを自分ごと”にするための近道は、まず本物の芸術作品を所有してみること。アートをもっと身近なものにするために、新進気鋭のアーティストに注目し、発掘、そしてサポートしていく楽しさを紹介していきます。
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西垣肇也樹(1985-)
美術家やコレクター、ギャラリストから今、熱い眼差しを集めている気鋭の作家たち。彼らの制作に対する想いや、作品に託した「問い」について伺うべく、“未来の巨匠”のアトリエを訪ねました。
水墨を自在に扱う“現代の北斎”が、ゴジラを通して問いかける
西垣 肇也樹/Hayaki Nishigaki1985年兵庫県生まれ。2012年京都造形芸術大学大学院修了。京都銭湯芸術祭を企画運営。若手アーティストが集う「スタジオハイデンバン」を立ち上げ、現在もそこで制作を行う。“抽象的なものを具体的に。制作の根本にある『問い』の答えは、自由に考えてほしい”
プロジェクターで投影した下絵をもとに、京都の町を描いていく西垣肇也樹さん。そこには巨大なゴジラが潜み、その背びれは、伏見稲荷の鳥居になり、糺(ただす)の森になり、五条橋になって町に溶け込んでいます。
墨と和紙を使い、山水画や円相(えんそう)、百鬼夜行図などを描く西垣さんにとって、ゴジラは重要なモチーフです。
LINEのスタンプなどからランダムに選んだ文字で構成された円相シリーズより、《一円相 右2》。円相はゴジラの尻尾。「70年近く描かれているキャラクターですが、その時代の文脈によって扱われ方が違う。戦争や教育問題、環境問題、最近の『シン・ゴジラ』では震災や原発の問題もありました。戦後間もなくゴジラを観た人と今の子どもたちでは、違う印象を持っているはず。その時代の日本と日本人を表現する存在だと思います」
ゴジラに近づくと、周りに隠れた妖怪やご当地キャラクターなどユーモラスな要素も見えてきます。「アイドルの脚」が絡まり合った木もその一つ。「消費されていくアイドルと、木の新陳代謝を重ねています」(下でご紹介)。
西垣さんにとって「問い」は欠かせないもの。「『問い』が大本となっていて、それがないとアートではないと思っています。今ならコロナやウクライナ問題、見る人自身の問題でもいい。僕も様々なことをリンクさせて作っているので、『これはこんな意味』とはっきり答えられないこともあります。何が描かれているのか、どう思うか、自由に考えてもらえれば」。
モノクロームの世界に没入すると隠れたモチーフが見えてくる
162×192cmの大作《正倉院山水画》。水墨を始めたのは5~6年ほど前で、油絵のキャリアが長い西垣さん。「大学を卒業して社会に出たとき、油絵では表現できない世界が出てきて、墨に方向転換しました。デッサンを長くしていたこともあり、もともと白黒の世界は好きだったんです」。墨は濃度の違うものをいくつか用意する。下絵は大まかな位置の目安で、細かな構図や描写は描きながら決める。
疫病封じの妖怪「アマビエ」。左上の枝の先にはマスクが。「読み込んで気づいてほしい」。
アイドルの脚(針葉樹)。「広葉樹が育つと役目を終えた針葉樹は枯れる。アイドルの世代交代と同じ」。
大仏のように螺髪(らほつ)や手が描かれたゴジラ。「大きすぎて正倉院に入りきらないんです」。
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https://www.sumarepi.jp/art/ 〔特集〕見つける愉しみ、育てる愉しみ「現代アート、才気発掘」(全6回)
撮影/大道雪代
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。