現代アートの目利きに聞く──
未来の巨匠、気鋭芸術家の見つけ方
実際に新進アーティストの作品を購入するにはどうすればよいのでしょうか。目利きのアートのプロ7名にその探し方やアートスポット、作品を見る際のポイントとおすすめの若手芸術家を伺いました。(推薦者、被推薦者ともに五十音順)
井村優三さん(イムラアートギャラリー)
芸術大学をはじめさまざまな展示に足を運びます。ギャラリーとしては、一生アーティストとして活動を続ける覚悟があるかどうかを重要視しています。また、学業のプログラムをこなして、地に足のついている、という点も作家を見る要素の一つとして捉えています。
●おすすめの若手芸術家
川人 綾(下)、宮本佳美、
高瀬栞菜2021年に「ロンシャン ウィーン」の内装のアートワークを手がけた際の写真。@Aya Kawato Longchamp Vienna(Vienna, Austria)川人 綾/Aya Kawato(1988-) 「制御とズレ」をテーマに独自のグリッド表現を追求。井村さん「今後国際的な活動が期待されるペインター」。
上島 亨さん(会社経営)
美大生の場合は卒展をはじめ、学生さん自身が企画するグループ展などに積極的に足を運びます。また若手作家を中心に扱うギャラリーの展示を訪れたり、SNSで情報を探したりします。美術史を学び、自身の作品にしっかりと考えやコンセプトを持っているかた、アクリルだけでなく油絵具も扱えるかたをコレクションすることが多いです。一度は作家さんと直接お会いして話を伺うことも大切にしています。
●おすすめの若手芸術家
川内理香子(下)、後藤夢乃、豊田涼華、山田愛子、山ノ内陽介
Raining Forest 2021 キャンバスに油彩 227.3×363.6cm 撮影/Shintaro Yamanaka(Qsyun!) ©Rikako Kawauchi,courtesy of the artist and WAITINGROOM川内理香子/Rikako Kawauchi(1990-) 上島さん「色彩、モチーフ、塗り、すべてが素晴らしく、ペインティング以外の作品も含め最も好きな作家さんです」。
小池 藍さん(投資家・大学講師)
森美術館の
六本木クロッシング(※1)など、規模を問わず各種展覧会に行きます。アートイベントや、ギャラリー、
アートフェア東京(※2)や
ARTISTS'FAIR KYOTO(※3)などのアートフェア、
東京藝術大学(※4)や
京都芸術大学(※5)の卒展、文化祭展にも行きます。
エースホテル京都(※6)や
ホテル アンテルーム 京都(※7)、
BnA Alter Museum(※8)、
node hotel(※9)など、アートホテルでの展覧会もおすすめです。
●おすすめの若手芸術家
熊谷亜莉沙、スクリプカリウ落合安奈、友沢こたお、水戸部七絵(下)
She is a Blonde Heavy and Big Star. 2021 キャンバスに油彩、石膏 200.0×200.0cm 撮影/Atsushi YOSHIMINE ©Nanae MITOBE 高橋龍太郎コレクション水戸部七絵/Nanae Mitobe 時代の象徴的な人物の顔を描き、絵画の本質を追求する。油絵具を豪快に手で摑み重ねた、大胆な色彩と質感が特徴。
小山登美夫さん(ギャラリスト)
ここ15年間、
アートアワードトーキョー 丸の内(※10)の審査のために、日本の主な美術大学、15校程度の卒業展、修了展をくまなく見ています。そこで面白い若手を見つけることが多いです。また最近、特に注目できるのは
京都芸術大学(※5)で椿 昇さんが卒業展で値段をつけて売り始めたこと。椿さんはその後、
ARTISTS' FAIR KYOTO(※3)もプロデュースしています。アーティストが作品の前に立ち直接対話ができる手法は、ある意味革命でした。東京からも大勢のコレクターが見に行くなど、ここで作品を買うことが最近の流行です。アーティストが推薦するアーティストを見られるなど、若手を探すのにおすすめです。
●おすすめの若手芸術家
工藤麻紀子、GORILLA PARK、
西村 有 住谷晃一郎さん(美術評論家)
主に出版物と
アートフェア東京(※2)、
SBIアートオークション(※11)で探します。出版物は、求龍堂や青幻社などから出ている若手作家の個人画集や、雑誌、文庫本のカバーなどをチェックしています。出版物に掲載される作家はトレンドを捉えていて、今後評価が高まるか、すでに評価されている作家と考えてよいと思います。アートフェアやオークションでは、実際現代アートが売買されるスペースで客観的な落札価格のデータが得られるので、直近2、3年の急騰率の高いものから優先順位をつけて狙っていくのも方法です。特に、「なんだこれは?」と既成の枠にとらわれない新しさがある作家は、ブレイクする可能性が高いと思います。
●おすすめの若手芸術家
KYNE、舘鼻則孝(下)、土屋仁応、Backside works、Haroshi、野口哲哉
Heel-less Shoes 2022 牛革に金唐革紙、染料、金属ファスナー 高さ31.8×幅9.3×奥行き19.8cm(片足) 撮影/Osamu Sakamoto ©NORITAKA TATEHANA K.K.Courtesy of KOSAKU KANECHIKA舘鼻則孝/Noritaka Tatehana(1985-) 2010年、高下駄に着想を得た「ヒールレスシューズ」をレディー・ガガが愛用し、国内外で注目を集める。
千住 博さん(画家・日本芸術院会員)
コンテンポラリーアートはいかに新しいかが問われますが、新しければ何でもやっていいというわけではありません。それでは、芸術作品という「これ以上足したり引いたりできない精神の秩序」が成立しないからです。大切なのは、抱え込むストーリーの深さ、リアリティです。それは体験に加え、歴史観、風土感、宗教観を含み、時にジェンダーや人種も抱え込み、多様で個人個人みんな違うものです。単に趣味的に好き嫌いを優先するのではなく、文化を育てるパトロンの意識を持って、確かな画家や専門家が冷静に見極め推薦した作家たちを参考に、自分に響く、成長を見守りたいと思える作家を探すことを楽しんでください。
●おすすめの若手芸術家
岩田壮平(下)、菅かおる
flower's spirits 2020 岩絵具、箔、膠、樹脂膠、紙本 116.7×80.3cm岩田壮平/Sohey Iwata(1978-) 千住さん「日本画界の期待の存在。作品は華やかで重厚、日本の空気感と世界的同時性の精神に満ちていて美しい」。
椿 昇さん(京都芸術大学教授)
京都芸術大学美術工芸学科の学科長に就任後、セントマーチンやRCAなどロンドンの芸術大学を参考に、まずは
卒展(※5)の改革に取り組みました。会場を、売買できない市の美術館から学内に変更。制作室を徹底的に掃除して壁を塗り直しホワイトキューブにし、バイリンガルのカタログを整備。トップギャラリストやコレクターのかたがたをお招きするプレビューを実施し、学科長室でワインを飲んでいただいた後、私の案内でギャラリーツアーをしました。結果、初回から爆発的な購入があり、教員や学生の意識改革が起こりました。2018年からは
ARTISTS' FAIR KYOTO(※3)にも取り組んでいます。グローバルアートマーケットの抱える問題を是正すべく、アーティストオリエンテッドでローカルマーケットのバージョンアップに取り組んでいます。
●おすすめの若手芸術家
芦川瑞季、
香月美菜、木村 舜、顧剣亨、熊谷亜莉沙、笹岡由梨子、
品川 亮、
西垣肇也樹、
前田紗希、
大和美緒
※1 六本木クロッシング3年に一度開催されている、日本の現代アートシーンを総覧し、定点観測できる展覧会。「
六本木クロッシング2022展: 往来オーライ!」が2023年3月26日まで森美術館で開催中。
※2 アートフェア東京2005年から開催している日本最大級のアートフェア。例年国内外から約150軒のギャラリーが参加し、古美術から現代アートまで多種多様な作品が3000点以上集まる。「アートフェア東京2023」が2023年3月10日〜12日に、東京国際フォーラムホールE/ロビーギャラリーで開催予定。
https://artfairtokyo.com/※3 ARTISTS' FAIR KYOTO2018年から開催している京都府らが主催のアートフェア。アーティストが自ら企画、運営、出品を手がける。「ARTISTS' FAIR KYOTO 2023」は2023年3月4、5日に、京都府京都文化博物館 別館、京都新聞ビル 地下1階ほかで開催予定。TEL:075(414)4219
※4 東京藝術大学卒業・修了作品展2023年1月28日〜2月2日に、東京藝術大学大学美術館・大学構内、東京都美術館で開催予定。
※5 京都芸術大学卒業展/大学院 修了展2023年2月4日〜12日に、京都芸術大学 瓜生山キャンパスで開催予定。TEL:075(791)9165(京都芸術大学 教学事務室)
※6 エースホテル京都シアトル発のアートや音楽を軸にしたホテル。1階にギャラリーを備え、宴会場や客室などいたる所にアートを配置する。「柚木沙弥郎 & Alexander Kori Girard 二人展」が2023年1月10日まで開催中。TEL:075(229)9000
※7 ホテル アンテルーム 京都京都にある“アート&カルチャー”と“和”をコンセプトにしたホテル。ギャラリーや館内では京都に縁のある作家を中心にさまざまな作品を展示、購入もできる。TEL:075(681)5656
※8 BnA Alter Museum京都にあるアートスペース。泊まれる空間型アート作品31部屋に加え、ギャラリースペースやミュージアムショップ、バー&ラウンジ等が併設されている。展覧会「連続するプロジェクト/インスタレーションを所有する」が2023年5月7日まで開催中。TEL:075(748)1278
※9 node hotel京都にある“アートコレクターの住まい”をコンセプトにしたホテル。パブリックスペースをはじめ各客室にも作品が展示されていて、アートを身近に感じることができる。TEL:075(221)8800
※10 アートアワードトーキョー 丸の内全国の主要大学の卒業展・修了展から厳選した作品を展示し、最終審査の上、グランプリや審査員賞など各賞を発表する若手の登竜門ともいえるアートイベント。例年9月下旬に丸の内エリアの複数の施設で開催されている。2022年には全国18校の中から194名の作品がノミネート、うち25点の作品が展示され、池上 創の《生命の息吹樹》がグランプリを受賞。TEL:03(5218)5100
※11 SBIアートオークション国内随一の国際性を誇る年間7〜8回の公開型のオークション。会場のほか、書面、電話、オンラインライブオークションなどで参加できる。「第55回 SBIアートオークション」が2023年1月27、28日に、代官山ヒルサイドフォーラムで開催予定。TEL:03(3527)6692