松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」 トレードマークの天然パーマを風になびかせ、にこにこ顔で現れた茂木健一郎先生。松岡さんとは共著を出版したこともある、気心の知れた間柄です。ご専門の脳について、多くの人が抱いている疑問を松岡さんがぶつけると、先生はたとえ話を交えてわかりやすく解説。還暦を迎えたご自身の健康観や、今日から実践できる「脳にいいこと」も教えてくださいました。
前回の記事はこちら>> 雨の合間を縫って行われた撮影で、嬉々としてぶらんこを漕ぐ茂木健一郎先生と松岡さん。童心を忘れていないところは似ています。人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する(松岡さん)パーカ、Tシャツ、パンツ、シューズ/ミズノ脳科学者 茂木健一郎先生
張りのある声で能弁に語り、笑い、取材後は「仕事じゃないみたいに楽しかったなぁ」とおっしゃった茂木先生。茂木健一郎先生(もぎ・けんいちろう)1962年東京都生まれ。東京大学理学部、法学部を卒業後、同大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了(理学博士)。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、現在はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。2021年に屋久島おおぞら高等学校校長に就任。「クオリア(意識における主観的な質感)」をキーワードに脳と心の関係を探求している。『脳と仮想』で第4回小林秀雄賞受賞。近著に『70歳になってもボケない頭のつくり方』。脳が喜ぶことを教えてください── 松岡さん
「むちゃぶり。脳にとっていちばんのご馳走は新しい経験ですから」── 茂木先生
松岡 先生、今日のテーマは健康です。
茂木 健康でいるには、自分を知ることですね。自分のありのままを受け入れたうえで、やりたいことをやることです。僕は今、毎日10キロ走っていて、東京マラソンにも出場していますが、健康な理由はそこではなく、「やりたいことをやっているから」だと思うんです。今の若者はすぐ、「コスパがいいですから」といいますが、コスパ優先の人生なんて、やりたいことをやっていない人生。修造さんも、コスパを考えたら、慶應高校から慶應大学に進んで、大企業に勤めたほうがよかったかもしれない。でも、テニスのトップ選手になるために九州の高校に転校してアメリカへ行き、現在の幸せな修造さんがいるわけですよね。
松岡 そうですね。僕はジュニア選手の合宿を二十数年やってきて、「一番の近道」を伝えてきたつもりなんです。でも、考えたら、僕が成功したのは遠回りしたからなんですね。
茂木 いいことをいいますね。
松岡 遠回りが無駄じゃなかったと思うようになってから、ジュニアの子どもたちがしたいと思っていることは、それが正しいかどうかは別として、大事にするようになりました。
松岡さんが掲げているのは先生ご持参の脳の模型。ジャケット、シャツ、ネクタイ/紳士服コナカ年を取ってこそ発揮される潜在能力があるはず
松岡 ところで、脳が年とともに衰えていくのは仕方のないことで、受け入れるしかないのでしょうか。
茂木 確かに単純な記憶力とかは衰えます。でも、脳には「代償機能」があって、どこかの機能が衰えるとほかの機能が補ってくれる。そこで見えてくるものが、すごくクリエイティブだったりするんです。
松岡 クリエイティブというと、たとえばどんなことですか?
茂木 葛飾北斎が代表作『神奈川沖浪裏』を描いたのは70歳過ぎですが、彼が生きた江戸時代の70代は現代に置き換えたら80代、90代。その高齢でなぜ、あの大胆な構図が描けたのか。年を取ってこそ、発揮される潜在能力があると、僕は考えています。
松岡 年を取ってこそ、と聞くと、前向きな気持ちになりますね。
「潜在能力の発揮を阻むのは『思い込み』と『らしさ』です」── 茂木先生
茂木 潜在能力といえば、僕は周りの人を見ていて、大半の人が十分に生かせていない気がしていて。
松岡 なぜ、生かせないのでしょう?
茂木 自分はこういう人間だという「思い込み」や「らしさ」が邪魔をしている場合が多いですね。人はある程度の年月生きてくると「自分らしさ」ができ上がってくるものですが、それは誰が決めたもの?という話です。
松岡 なるほど。
茂木 やったことがないから気づいていないだけで、実はものすごい才能があるかもしれない。そんなことを考えると、もったいない気がして。
松岡 本当はもっとできることがあるのに、自分で自分に見切りをつけてしまっているということでしょうか。
茂木 そうですね。
松岡 確かにもったいないことですね。潜在能力を発揮できるようにするにはどうしたらいいのでしょう?