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工藤美代子さん綴る【快楽(けらく)】第9回「“老け顔”という煩悩にはまって(後編)」

2022.12.14

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とまあそんな予備知識を仕入れた。あまり不安を感じなかったのは、先生の説明がすっきりと要点を衝いていたからだろう。それに、もう72歳ともなると失うものは何もない。少しでもシワが伸びたら有難いと思うだけだ。長年連れ添っている自分の顔が、突然美人になるようなマジックなんて、この世に存在しないことはじゅうぶん承知している。

一番気になっていたのは料金なのだが、これは大体50万円くらいかららしい。というのも人によっては広範な治療を望むケースもあるし、とにかく法令線だけ消えたら嬉しいとか、それも右側の法令線だけなんとかしてもらいたいといった希望の人もいる。だから料金は患者の希望によって変わる。

まずはネット検索して、このクリニックのホームぺージを読み込んで、後は電話ででも相談することをお勧めしたい。もしも興味があったらだが。受付を始め看護師の女性たちはとても感じが良い対応をしてくれる。


後日、わが細胞の培養が無事に終わったらしく、RDクリニックから連絡があって、いよいよ細胞移植の日となった。施術後は顔が腫れるので、2、3日は人前に出られないと聞いていたけれど、私の場合は翌日にはもうほとんど腫れは引いてしまった。編集者さんとの打ち合わせがあったが、まったく気がつかなかった様子だ。もっとも若い男性編集者は私の顔なぞしげしげとは見ていない。

さらに2週間後には2回目の施術があった。なぜかこの時のほうが、チクチク注射するのがとても痛く感じられた。「イタタ、イタタ」と大騒ぎをしたらしい。終わった後で北條先生に「あのう、私は注射を痛いと言うほうですかね? それとも他の皆さんも同じく痛いとおっしゃいますか?」と尋ねたら、「いやあーすごく痛いと言うほうですよ」と答えられた。きっと先生は呆れたのだろう。「すみません」と小さくなって謝った。ノンちゃんも2回目は一緒に来てくれたのだが、しょうがないなあと笑っていた。

この結果がはっきりわかるのは今年の年末くらいになる。めでたくシワが伸びていたらミエさんにも知らせるつもりだ。私は若く見られたいなんて野望はないけれど、せめて年齢相応の顔になりたいと祈っている。ささやかな願いだけれど、もし実現したら、今まで背負っていた重い煩悩から解放される気がするのだ。

工藤美代子(くどう・みよこ)
ノンフィクション作家。チェコのカレル大学を経てカナダのコロンビア・カレッジを卒業。1991年『工藤写真館の昭和』で講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『快楽』『われ巣鴨に出頭せず――近衛文麿と天皇』『女性皇族の結婚とは何か』など多数。
イラスト/大嶋さち子

『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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