1967年の創設以来毎年開催され、若手フレンチシェフの登竜門ともいわれる権威ある料理コンクール「ル・テタンジェ賞国際シグネチャーキュイジーヌコンクール」。2023年1月にロンドンで行われる本選を前に、日本代表1名を決定する日本大会が開催されました。
シャンパーニュメゾン「テタンジェ」と料理コンクール
ランスを本拠地とするフランスの名門「テタンジェ」。世界中で愛される繊細で上品なシャンパーニュは、シャンパーニュ地方でも最高クラスといわれる畑から収穫された上質なシャルドネを使って造られています。
テタンジェの歴史は、1932年、創業者であるピエール・テタンジェが老舗「フォレスト=フルノー社」を買い取ったことに始まります。その後、ワインとガストロノミーへの情熱をもとに、メゾンで造られるワインのスタイルを確立。現在もなお、その精神を継承するテタンジェ家がオーナー兼経営者を務める、数少ない家族経営のシャンパーニュメゾンです。
「ル・テタンジェ賞国際シグネチャーキュイジーヌコンクール」の原点は、ピエール・テタンジェの息子であるクロード・テタンジェが、父の情熱に敬意を表して開催した料理コンクール。以降、ジョエル・ロブションをはじめとする名だたるスターシェフが歴代の優勝者として名を連ね、フランス料理界の活性化と技術の発展を後押ししてきました。
各国より1名のみが本選へ。夢の舞台を手にするのは……
第55回大会となる今回、事前の書類選考を突破し、日本大会で競いあったのは「東京會舘」の神戸(かんべ)宏文さん、「銀座レカン」の太田明宏さん、「ホテルニューオータニ東京」の但馬彰典さんの3名。誰もが知る名店・名ホテルで活躍する若きシェフたちから、たった1名のみが本選へと駒を進めることができます。
今回の大会のテーマは「好きな部位の豚肉で作る温製料理」。このお題に則する形で、各シェフが自らの知識と技術を込めたメニューを作り上げました。
調理場の様子。「東京會舘」神戸宏文さんのチーム。審査では本人が調理をするのではなく、同伴した料理人によってレシピが再現され、その出来栄えが判断されます。レシピの構成力や人を動かす力が問われる形式であり、自分だけではなく、ともに切磋琢磨する仲間と挑む大会であるともいえます。
審査中の様子。審査員の1人として家庭画報.com鈴木編集長が参加した。日本人として初めて本選優勝を果たしたシェフである堀田 大さんを審査委員長に、有名ホテル・レストランの料理長、メディア関係者など10名が味わいやプレゼンテーションなど多岐にわたる項目で採点。制限時間からの超過などもスコアに反映され、最終的な結果が算出されます。
そして迎えた結果発表の時。見事1位に輝いたのは、「東京會舘」神戸宏文さん。前々回・前回と2位に終わった悔しさをバネに、3度目の挑戦にして念願の本選出場を決めました。
優勝した神戸さん(左)。共に大会に挑んだ仲間とともにうれし涙を浮かべた。さまざまな工夫と思いが込められたメニュー
「無駄なく作る」をコンセプトにしたという神戸さんは、ソース作りで使った肉をミンチにしてエシャロットの中に詰めたり、脂身を溶かしてじゃがいものコンフィに使ったりと、メインの食材として選んだ豚のロースを余すところなく使い切るレシピを考案。付け合わせにも豚肉の要素を取り入れることで、一皿に統一感を持たせ、説得力のある料理に仕上げることができた、と手ごたえを語りました。
また、作業工程の無駄も省き、シンプルな調理でおいしく作れるようにした点もポイントだといいます。
「無駄が多いということは、料理人の負担が増え、労働時間が長くなることにもつながります。単に仕事をこなすだけの日々ではなく、学んだり、いろいろな経験をしたり、料理人自身の生活がより豊かで幸せになれば、それが料理にも表れると思うんです」と神戸さん。料理業界全体の課題や未来への思いが、レシピに込められていました。
本選は2023年1月にロンドンで開催予定。日本のほかイギリス、フランス、ドイツ、スイス、ベルギー、スウェーデン、オランダの代表が集まり、栄誉ある優勝者が決定します。
ル・テタンジェ賞
国際シグネチャーキュイジーヌコンクール
撮影/フランス文化を識る会