狂言師たちが見出した現代劇にある楽しさ
野村萬斎さんが初めて翻訳劇に出演したのは1990年、24歳のとき。東京グローブ座『ハムレット』の公演で主役のハムレット役に抜擢された。
その後、2003年に世田谷パブリックシアターでジョナサン・ケントの演出により再びハムレットを務め、本作はシェイクスピアの本拠地であるイギリスでも上演されて、話題を呼んだ。
そして2023年3月の萬斎さん演出の『ハムレット』で、長男の野村裕基さんが初めて本格的なストレートプレイでタイトルロールに挑む。まずは萬斎さんにこれまでの心境を伺った。
「初演では膨大な台詞のエロキューションを演出家から教わりましたが、心情的な解釈は自分で突き詰めていきました。演じるごとに、それが自分のものになっていく楽しさがありました。2度目はイギリス在住の演出家でロンドン公演というワールドワイドな舞台にも立ったので、自分の感覚とはまた違うものを考えました。今回は私が演出するので日本的なアイデンティティーを持ちつつもワールドワイドな世界にしたいと思っています」
裕基さんは2022年2月に初の狂言以外の舞台、朗読劇で萬斎さんの演出でハムレットを演じた。
「狂言同様、師弟関係にある父から教わりました。それなのに普段の狂言とは違う感覚で、古典的な言葉を台詞としてしゃべる劇ではなく、現代的な言葉をしゃべる劇は、芽生えていい感情なのかはわからないけれど、意外と面白いなと思いました。戯曲を朗読しながら演じるのと、頭に台詞がすでに入っていて演じるのでは、感覚は違うのかなとは思います。でも文章で読んでいても感情の浮き沈みや生と死のギャップみたいなものを感じながら演じられて、現代劇の世界の楽しさに気づくことができました」
裕基さんがそう語る傍から、萬斎さんが当時を振り返って補足してくれた。裕基さんの初々しさが伝わってくる。
「“知ってはいけない世界を知っちゃった”と開口一番でいっていました。そして“こんなに思っていることを全部しゃべるんだ”といっていたのが、印象的でした。私のほうが覚えていますね(笑)。狂言は台詞が省略されていて叙事的なのに対して、『ハムレット』では感じたことや気持ちが叙情的に描かれていることが新鮮だったのだと私は受け取りました」