家族
「まだいろいろと耐えなくてはならないかもしれませんが、今日よりよい日々が戻ってくることを心の支えにしましょう。(略)
友達にもまた会えます、家族にも会えます。私たちは再び会うことができるのです」2020年4月5日。新型コロナウイルス感染症拡大を受けてのビデオメッセージ。女王93歳
女王は医療や介護の従事者をはじめとする全労働者、自宅で活動を自粛している国民への感謝から語り始めた。今は忍耐が必要だが、団結して乗り越えれば家族や友人に会えると希望を伝え、後に今の自分たちを誇れるときが来ると励ます。クリスマス以外に女王が直接国民に語りかけるのは異例のことだけに、多くの人々が真剣に耳を傾けた。
希望
「私たちは戦争という危険で悲しい出来事を耐え忍ばなければなりません。(略)私たちは最後にはうまくいくことを知っています」1940年10月13日。第二次世界大戦中、イギリス全土の子どもたちに向けたラジオメッセージ。王女14歳
14歳の少女が「忍耐の後に希望がある」と励まし、「平和が到来した暁には、今日の子どもたちのすべてが明日の世界をよりよい幸せなものに作り上げていく」と語る声に、感動の涙を流した大人も。後の秘書官・コルヴィルはこの日「エリザベス2世はラジオの時代の女王として大成功を収めるに違いない」と日記に書いた。
初めてのBBCラジオ放送に臨む14歳のエリザベス王女(右)。左は妹のマーガレット王女。写真/AP〈アフロ〉
愛
「クリスマスは多くの人にとって幸せで楽しいときですが、大切な人を亡くした人にとってはつらい時期でもあります。今年は特に、私にもその痛みがよくわかります。(略)人生には最初の出会いがあるように最後の別れもあります。私も家族も彼(故エディンバラ公フィリップ殿下)がいなくてとても寂しいですが、彼は私たちにクリスマスを楽しんでほしいと望んでいるに違いありません。(略)
私たちは、子どもたちや家族が自分たちにとって大切な役割、伝統、価値観を受け入れ、世代から世代へと継承し、ときには時代の変化とともに更新していく様子を見ることができます。私も、自分の家族がそうであることをとても幸せに思います」
2021年12月25日。女王最後のクリスマス・メッセージ。女王95歳
2021年4月、夫・フィリップ殿下が99歳で亡くなった。73年間連れ添い、支えであり力でもあった夫を失った寂しさを女王は正直に表現。同時に、喪失の悲しみを大切なものが次の世代へ受け継がれていく希望につなげて語る気丈な姿は、多くの人々の共感を呼んだ。翌年、女王は後を追うように亡くなり、これが最後のクリスマス・メッセージとなった。
フィリップ殿下との仲睦まじい写真とともに。深い悲しみを抱きつつも威厳は失わなかった。写真/代表撮影/ロイター〈アフロ〉
理解
「父もまた戦争で多くの友人を失いました。クリスマスになると、亡くなった大切な人たちのことがしきりに思い出されます。(略)
深く愛するからこそ、悲しみも深いのです。(略)
私は長年、さまざまな変化を見てきましたが、その間、信仰と家族と友情は不変であるだけでなく、私自身の安らぎと安心の源でした。(略)
どれほど深刻な違いがあっても、相手を尊重し同じ人間として接することが理解への大きな一歩となるのです」
2018年12月25日。クリスマス・メッセージ。女王92歳
第一次世界大戦終結100周年に当たるこの年、女王は父・ジョージ6世の戦争体験を振り返り平和を訴えた。尊重が理解につながると語ったのも平和へのメッセージだ。孫の結婚や曽孫の誕生、チャールズ現国王が70歳になった喜びにも触れ、信仰・家族・友情は、国民と同様に女王自身の心のよりどころでもあることを伝えた。
机上には話に関連して海軍時代の父の写真、家族写真、チャールズ現国王が誕生したときの写真が飾られた。写真/代表撮影/AP〈アフロ〉