南 果歩(みなみ・かほ)1964年兵庫県生まれ。映画『伽椰子のために』のヒロイン役でデビュー。2022年12月南相馬市のLa Mama ODAKAで、劇作家谷賢一制作の福島滞在第1弾となる公演が行われた。AppleTV +で配信中の海外ドラマシリーズ『パチンコPACHINKO』に出演中。著作『乙女オバさん』が小学館より好評発売中。読んでもらう子どもだけでなく
読み聞かせする大人も癒やされる絵本に
家庭画報本誌でも活躍中の女優、南 果歩さんが絵本を出版した。南さんは、映画やドラマ、舞台への出演とともに、絵本の読み聞かせに積極的に取り組み、ライフワークとしていることでも知られている。
「絵本の読み聞かせを始めた大きなきっかけは、東日本大震災でした。震災1か月後くらいから、食料品や日用品と一緒に絵本を持って避難所を訪問する活動を始めました。そのときはお一人ずつお話をすることくらいしかできませんでしたが、大勢のかたから“ドラマに出てください”と声を掛けられたのです。想像を絶する大変な状況にもかかわらず、人は物語を欲するのかもしれないと気づかされました。
そこで、皆さんが避難所から仮設住宅に移られ、少し落ち着かれた頃に、幼稚園や保育園などで絵本の読み聞かせを始めました。子どもさんが楽しんでくれたのはもちろん、保護者など大人のかたがたが涙を流しながら聞いてくださいました。物語には、こんなにも人を癒やす力があるのかと、逆に教えていただいたような気がします」
そうして続けていた活動だが、新型コロナの感染拡大によって中止せざるを得なくなってしまった。
「直接皆さんの前で読み聞かせをすることができなくなってしまったので、ライブ配信をすることになりました。配信となると読ませていただく絵本の著作権者の許可が必要になるのですが、これがなかなか難しくて、読める絵本が足りなくなってしまったのです。そこで、ずいぶん前に書き溜めていたお話を思い出しました。ソーシャルディスタンスが求められるなかで“抱っこ”をテーマにしたお話はぴったりだと思い、手直しして、そのときは“絵のない絵本”として読みました」
反響が大きく、今回の出版の話につながり、“絵のある絵本”になった。
「今回、躍動感のある絵を描かれるダンクウェルさんにお願いしました。オファーする際は、いろいろ説明するよりも聞いていただいたほうが伝わるかなと思って、ダンクウェルさんの前で読み聞かせをしたんです。ぜひ一緒にやりましょう、といっていただけました。
お互いに絵本をつくるのは初めてだったので最初は手探りでしたが、私も彼も、キャラクターは動物がいいとイメージが一致していたので、同じ方向性で絵本づくりができましたね。彼の絵のおかげで物語の世界が広がり、生命が吹き込まれました。
誰かに物語を読んでもらうことは、大人にも必要なことです。今後は大人向けの読み聞かせの会も予定しています。読んでもらう人が楽しむだけでは続かないので、読む人のことも同時に癒やせる絵本になっているといいなと思っています」
装丁/徳澤伊津子『一生ぶんのだっこ』
南 果歩 文、ダンクウェル 絵/講談社2020年7月、新国立劇場の「劇場でもおうちでも」の一環として「おうちでえほんよみきかせ」を行った際に読んで話題となった、自作の“詩のような物語”が絵本に。絵を担当したダンクウェル氏は、ニューヨークと東京で活躍するストリート系のアーティスト。
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『家庭画報』2023年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。