コレステロールも中性脂肪も必要な栄養素
女性の脂質異常症は、過剰に怖がらなくて大丈夫
天野惠子(あまの・けいこ)先生静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。コレステロールは細胞膜の材料。中性脂肪はエネルギー源。
どちらの脂質も大事な栄養素
コレステロールは健康な体をつくり、活動するために欠かせない脂質。中性脂肪は体温を保ち体を動かすエネルギー源です。
いずれも血中に適量存在していればよいのですが、コレステロールを運ぶLDLの値が高くなり、回収するHDLの値が低くなると、余ったコレステロールが血管壁に蓄積して酸化し、血流を滞らせ動脈硬化を進ませます。
また中性脂肪が増えすぎるとHDLがつくられにくくなり結果的にLDLが増えていきます。
●どちらも体に必要な「脂質」。増えたり減ったりすると悪影響を及ぼす
コレステロールと中性脂肪の働き
●脂質異常症診断の基準値と病名
*総コレステロールからHDLコレステロールを除いた値。LDLコレステロール以外の悪玉も含む"総悪玉コレステロール"の値を示す。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)より作成エストロゲンがなくなる閉経後は悪玉が増え、善玉が減る
総コレステロール値は男性を上回る
血液中のLDLは細胞表面にある「LDL受容体」にくっついて、主に肝臓の細胞内に取り込まれます。
女性ホルモン・エストロゲンにはLDL受容体の数を保って血液中のLDLの増加を抑え、回収係のHDLを増やし、中性脂肪も抑える働きがあります。
そのためエストロゲンの恩恵がなくなる更年期以降は、自ずと血液中のコレステロールや中性脂肪が増えていき、女性も脂質異常症になりやすい体に変わっていきます。
●女性は50~60代でピークを迎え男性を追い越す
加齢に伴う総コレステロール値の変化(男女比較)
千葉県22市町村基本健康診査(平成15~18年度。男女合わせて延べ36万6862人のデータ)の結果より平成18年度の数値を取り出してグラフ化(千葉県基本健康診査データ収集システム確立事業)。心配しすぎないで。女性はLDLコレステロール値が高くても冠動脈疾患は増えない
高コレステロール値は動脈硬化が進む一つの要因ではありますが、女性は必ずしも狭心症や心筋梗塞など冠動脈疾患のリスクが高まるわけではないことが疫学調査から明らかになっています。
下の図のように、女性の場合、喫煙や糖尿病がそのリスクを大きく高めるのに対して、高LDLコレステロール血症はほとんど関与しません。数値の程度にもよりますが、すぐに薬が必要ではない場合も多いので心配しすぎないことです。
●女性の高LDLコレステロール血症は心筋梗塞の発症リスクを高めない
急性心筋梗塞の危険因子(オッズ比)
Circulation Journal 2006;70:513-517より改変家族性高コレステロール血症とは
閉経前の若い頃からLDLコレステロールの値が高いときは遺伝的素因から発症する「家族性高コレステロール血症」が疑われる。専門医を受診し早期診断・早期治療を。
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
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