「歌舞伎を好きにさせてくれた祖父と父を目指します」── 市川染五郎
── 2022年に出演された歌舞伎の公演で、どの演目が印象に残っていますか?
幸四郎 一つ挙げるとすれば『寺子屋』かなと思います。叔父(2代目中村吉右衛門)の追善ということもありますけれど、憧れの役でもあります。父の世代がその時代の人たちが受け容れる『寺子屋』を演っていたから、自分もそのお芝居の素晴らしさを知ることができました。今の時代に受け容れられる『寺子屋』を表現することの難しさは、すごく感じました。
染五郎 僕は初めて歌舞伎座で主演を勤めさせていただいた『信康』です。祖父からいただいた貴重なチャンスでした。
幸四郎 義高を演じた後の流れで『信康』を演らせていただけたのは、本当にありがたいことだと思います。台詞劇なので、映像作品で緻密にお芝居を作った経験が存分に活かせる作品でもあるなと思いました。
染五郎 義高も信康も最後は悲劇的な役ですが、それぞれ時代も違いますし、内面的なところは全く違う人物だったので、演じているときは全く違う感覚でした。
幸四郎 信康は『反逆児』という映画では“凄まじい男”の印象ですが、歌舞伎の初演では澤村藤十郎のおじさんが演じられた役なので、二枚目のもっと繊細な部分を描こうとされていたのではないでしょうか。だから染五郎は自分にあるものを活かして『反逆児』とは違う信康像だったと思います。それが面白かったですね。
染五郎 僕はそれまで知らなかった作品だったので映像で拝見したんですが、まず台詞の多さに驚きました。歌舞伎の作品で感情を出すということをあまり経験していなかったので、演出の齋藤(雅文)さんに、信康という人物のことだけではなく、舞台での見せ方も教えていただきました。技術的なところも含め、全部が初めての経験だったので、どうなるかは全く想像がつかなかったですね。