がんまるごと大百科 第1回【基礎知識編】(02) 働き盛りの女性は、男性よりもがんにかかるリスクが高いことをご存じですか。本連載では、1年にわたり予防から治療までがんの情報をまるごと取り上げます。第1回は、女性のがんの罹患状況を正しく認識するための基礎知識編です。
前回の記事はこちら>> 女性の2人に1人はがんにかかる時代です
若尾文彦(わかお・ふみひこ)先生国立がん研究センター がん対策研究所 事業統括。横浜市立大学医学部卒業。1988年、国立がんセンター中央病院に入職。放射線診断部医長、がん対策情報センターセンター長などを経て、2021年より現職。信頼できるがん情報の発信と普及、がん対策評価などに取り組む。働き盛りの女性の罹患率を押し上げる乳がんと子宮がん
「罹患率全体を見ると、がんにかかるのは男性のほうが多いのですが、働き盛りの世代(18~55歳)に限ると女性のほうが倍近く多いのです」と若尾先生は驚くべき事実を指摘します。
がんは遺伝子が傷ついて異常な細胞が発生し、それが蓄積されることによって発症します(下のコラム参照)。
細胞分裂を何度も繰り返すと異常な細胞が発生する確率がそれだけ高まるため、50歳を過ぎるとがんにかかる人が徐々に増えてきて、その数は加齢に伴って増加します。つまり、高齢になればなるほど、がんを発症しやすくなるのです。
〔がんはどのように発生する?〕
遺伝子に傷がつくことで細胞が変化してがんになる
がんは何らかの原因により正常な細胞の遺伝子に傷がついて異常な細胞が発生し、それが蓄積することで発症します。女性の場合、遺伝子を傷つけるリスク因子としてわかっているのは特定の感染、喫煙、受動喫煙、飲酒、塩分摂取、運動不足などです。
がんは遺伝子の変化によって起こる病気ですが、8割以上のがんは親から子に遺伝するものではありません。一般に広く流布している「がん家系」という概念についても科学的根拠はなく、遺伝子を傷つけるリスク因子の多い生活習慣を共有することで同じ家族にがんが発生しやすくなるのだろうと考えられています。
がんの発生と進行の仕組み
(1)正常細胞正常な組織
(2)前がん病変遺伝子に傷がついた異常な細胞ができる
(3)上皮内がん複数の遺伝子の異常が蓄積した細胞が増えて塊を作り、周囲に広がりやすくなる
(4)浸潤がん異常な細胞が基底膜を越えて周りに広がる(浸潤)
(5)浸潤がん血管などに入り込んで全身に広がる(転移)
国立がん研究センター「がん情報サービス」の資料を参考に作成一方、女性は男性よりもひと足早く30歳を過ぎた頃からがんにかかる人が増えてきます。この背景には女性がかかりやすいがんの存在があります。それは乳がんと子宮がん(頸がん、体がん)です。この2つのがんが働き盛りの女性の罹患率を押し上げているのです。
2019年のデータでは女性でがんと診断された人のうち、最も多かったのは乳がんで、女性の9人に1人が罹患することがわかっています。
「乳がんと子宮体がんは女性ホルモンのエストロゲンが発症に深く関与しています。女性のライフスタイルの変化に伴い妊娠・出産の回数が減り、エストロゲンに晒される時間が以前より増えたことで、これらのがんを発症するリスクが高まっていると考えられています」と若尾先生は説明します。
閉経前の女性に加え、閉経後にホルモン補充療法を受けている女性も、これらのがんに特に注意する必要があります。