365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
一覧はこちら>> ミツマタ
枝の先端に小さな花が集まり、ボール状の花房に。花が下向きに咲くのも風情があります。■属科・タイプ:ジンチョウゲ科の落葉低木
■花期:2月下旬〜4月中旬
フェルトのような質感の花はあたたかみがあってきれい
枝が3つに分岐することから三又=ミツマタ。この低木の特徴を一言で表した植物名ですが、おもしろいのはどこまでいっても枝が必ず3つに分岐すること。そろそろ咲き出しているので、ぜひミツマタを見かけたら、3つに分岐する枝を先端まで追いかけてみてください。
もし庭があったら、ミツマタを絶対に植えたいと毎年思います。よく通る散歩道にミツマタが壁を越えて枝を伸ばしているお宅があり、蕾をつけ始めた頃から開花を楽しみに観察しています。
淡いクリーム色のフェルトのような質感の蕾はかわいらしく、その先端が黄色く染まった時点から「かわいらしくてたまらない!」という気持ちになります。早春〜春にかけて黄色の花を咲かせる木はたくさんありますが、ミツマタの黄色は濃く、その質感のせいかぬくもりを感じさせてくれるのも魅力だと思います。
長野県にある観光ガーデンでは、チューリップの球根を植えつけた花壇の中にミツマタが3本植えられています。積雪することもある寒冷地なので、宿根草などは掘り上げてハウスに避難させている中、3本のミツマタだけが厳寒期の花壇で寒さに耐えているのですが、それでも2月下旬には蕾をつけ始めます。
耐寒性は普通程度といわれますが、その様子を見ていると、けっこう寒さにも強い性質ではないかと感じました。さすがに開花するのは少し遅く、チューリップの芽が出る頃になりますが、その間、堅い蕾が徐々にほどけていくのを見ているのも楽しいものです。
ミツマタといえば木の繊維質が強いことから、良質の紙の原料とされてきたことは皆さまご存じだと思います。日本では1879年(明治12)に初めてミツマタとアバカ(マニラ麻)が紙幣の原料として利用され、現在でもその伝統が受け継がれています。お財布の中にミツマタが入っていると想像すると、ミツマタがより身近な植物に感じられますよ。
3つに分岐した枝の先端に花が咲いているのがわかりますか? 黄色の部分は花弁ではなく、がく片です。栽培の難易度
日当たりがよく、水はけのよい土壌に植えます。明るい日陰でも育ちますが、日なたのほうが花つきがよくなります。植えつけ時に元肥を施せば、追肥の必要はありません。翌年以降は花後に有機質肥料を株元にすき込みます。水やりは雨まかせでかまいません。自然に樹形が整うので、強い剪定はいらず、花後に枯れ枝を取り除き、伸びすぎた枝を切り落とす程度でかまいません。花芽は新しく伸びた枝の先端につくので、夏以降の剪定は花芽を切り落とすことになるため避けたほうがよいでしょう。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。