365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
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豊後系・豊後性の枝垂れ品種の‘藤牡丹’。愛らしいピンクの花が枝垂れる枝に並び咲くさまには思わず「かわいい!」と声を上げてしまいました。早咲きのウメには少なかった枝垂れタイプの華やかで風情がある姿を楽しめるのもこの時期から。■属科・タイプ:バラ科の落葉低木
■花期:1月〜3月
思いがけないほどきらびやか。サクラより派手な花ウメに夢中!
1月1日に早咲きのウメを紹介しましたが、2月中旬からは続々とさまざまな品種が咲き始めます。実を食べるために改良された実ウメに対し、花を観賞するために改良されたのが花ウメです。かわいらしくも妖艶な雰囲気のある花ウメをこよなく愛する私にとって、これから3月にかけては花散歩がよりうきうき気分になります。今日はどんな花ウメに出会えるかしら、と。
古い時代に中国から渡来し、奈良時代にはすでに栽培されていたウメですが、古くから日本人に愛されてきた花木だということは、現在でも各地に残された梅園の多さでもわかります。
東京23区内だけでも、池上梅園(大田区)、羽根木公園(世田谷区)、小村井香取神社・香梅園(墨田区)、亀戸天神社(江東区)、湯島天満宮(文京区)、小石川後楽園(文京区)、赤塚溜池公園(板橋区)、北区立梅公園(北区)などの梅園、またはウメの名所があります。
ビルや住宅がひしめく都内に、広い敷地の梅園がこれほどあるというのは、古くからウメが栽培されていた証しではないかと思います。
ちなみに私は池上本門寺に隣接する池上梅園をよく訪ねますが、意外なことに開園は1978年と新しい梅園です。ゆるやかな斜面の広大な土地には、戦前は日本画家・伊東深水の邸宅、戦後は料亭経営者の邸宅があったそうですが、1978年に大田区に移管され、大田区の花であるウメが植えられたそうです。
現在は白ウメ約150本、紅ウメ約220本と、23区内では最大級の梅園となっています。ここを訪ねるたびに、よく都内の真ん中にこれほど広い土地を確保できたものだと感心します。花散歩でもさまざまな種類の花ウメに出会えますが、珍しい品種を見たいときや、品種による花の違いを見比べたいときには、ぜひお近くの梅園を訪ねてみてください。
ところで、花ウメを紹介する際によく使われる「性(しょう)」という言葉をご存じでしょうか。品種が豊富な花ウメは、花や香り、幹の形や枝ぶりなどからグループに分類され、そのグループのことを「性」と呼びます。
これは明治時代に『梅譜』という本で小川安村が343品種を分類したものを基本としていて、まずは野梅系、緋梅系、豊後系という3系統があり、それぞれが3〜4つの性に分類されています。梅園などでは品種名が書かれたネームカードにどの性かをちゃんと記してくれているところもあります。品種名と同時に性も記録しておくと、その品種の特徴やプロフィールがわかりやすくなりますよ。
花ウメは、花だけでなく、枝ぶりの妙も大きな魅力。古木が生み出す味わいある枝のラインには力強さも感じられます。これは野梅系・青軸性の‘雲の曙’で、一重の花がすっきりした美しさ。栽培の難易度
日当たりがよく、肥沃で水はけのよい場所が適しています。根を広げられるように大きめの穴を掘り、前もって元肥を加えておきます。苗木を植えつけたら倒伏防止のために支柱を立てておきます。水やりは雨まかせでかまいませんが、幼木の間は土の表面が乾いたらたっぷり水やりをします。施肥は年に1度、12月〜翌年1月に有機質肥料を株元に施します。6月〜7月に長く伸びた枝をカットし、込み合った箇所の枝を間引く剪定をします。樹形の乱れを直す剪定は、落葉後の冬季に行います。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。