「草花や動物が描かれている更紗文様の帯を締めると自然の中に溶け込めるような気持ちになります」波木賊(なみとくさ)文様の江戸小紋きものに折枝更紗文様の帯。「これほど鮮やかで瑞々しい配色の更紗があることに驚きましたが、平山さんから色作りに最も時間をかけると伺って深く納得できました」と藤間さん。きもの、帯/竺仙 帯揚げ/和小物さくら数多くの型紙で文様を描く江戸更紗
作業中の生地と文様の完成図を比較しながら説明をする平山さん。工房の奥行きは半反分の生地を広げられるだけの長さがある。撮影/岡積千可藤間 工房でたくさんの型紙があるのを拝見しました。この型から美しい柄が生まれるんですね。
平山 父の頃からの型紙もありますが、私の代になって伊勢の職人さんに依頼して彫ってもらったものもあります。一つの柄を作るには何枚も型紙を使っています。工房でご覧いただいた帯の柄は13枚の型紙を使って何色も色を摺っているんです。
手漉きの和紙を重ねて柿渋で固めた地紙に小刀で文様が彫り込まれている型紙。糸目摺りでも数枚、緻密な文様には数十枚の型紙を使用する。藤間 素敵な柄でした。インドからきた柄はざっくりとしたイメージですが、更紗は日本に入ってきて緻密になったように私は思いました。
平山 おっしゃるとおりです。インドの柄は派手で大まかですね。江戸時代にインドから輸入された「彦根更紗」と呼ばれる古典柄もあります。
平山さんが使用している丸刷毛。藤間 平山さんは現在、お一人で作業をされていると伺いました。
平山 そうです。生地や柄、色のお客さんの好みを聞いて色合わせをします。まずは生地に引き染めをして、生地が縮んでしまうので湯のしで伸ばしてから板に貼り「糸目摺り」といって文様の輪郭を黒色で摺ります。あとは柄によって型紙の枚数が異なるので、順序は構いませんが、柄と地色に刷毛で彩色していきます。それが終わったら色止めと発色させるために1時間ほど蒸気で蒸します。
生地の上に型紙を置き、手になじんだ丸刷毛で色を摺り込んでいく。時代が求める色を更紗文様に生かす
藤間 蒸す前の色を拝見しましたが、わりと鮮やかな色でしたね。
平山 蒸すことで、色が冴えるんです。さらに水洗いで色を落としてから仕上げて終わりです。
藤間 冴えるというのは、色がはっきりするということですか?
平山 はい、そうです。
平山邦夫さんの作品より。草花と花鳥円窓文様を組み合わせた意匠の更紗の帯。帯/竺仙藤間 ご自身の一番のこだわりは色ですか? 作品には同じ柄でも配色が違うものもあるんですね。一色でも濃淡があって表情が全然違うと思いました。
平山 色にはこだわりますね。同じ柄でも暖色系、あるいは寒色系でまとめることもありますが、仕上がったときの印象はまったく違います。
平山邦夫さんの作品より。欧州小花切嵌文様更紗の小紋。染色で切りばめの効果を表したもの。きもの/竺仙藤間 先ほど雑誌から切り抜いた洋服の色をスクラップしていらっしゃるのを拝見しました。
平山 雑誌やチラシを見ていると女性の洋服の色にいいのがあるんです。だから見つけると切り取って集めています。色を作るときの参考になりますし、だいぶ使いました。
藤間 時代によって求められる色が違いますよね。
平山 そうなんです。配色次第で流行に左右されることなく、その時代に受け容れられるものができます。
藤間 私もきものを着るようになるまで更紗文様を意識したことがなかったんですが、異国情緒もありつつ日本のよさもあって、色にはモダンな感じもすると思いました。
平山 型紙があっても思い浮かべた色が出せないと結局何も表現できないと思います。だからこそ私は色にこだわってきました。
藤間 そういう作り手の個性や感性が作品に映し出されているのですね。
松本幸四郎夫人・藤間園子さんが案内する
「江戸の手仕事」
撮影/本誌・坂本正行(静物・工房取材) 細谷秀樹(人物) 着付け/伊藤和子 ヘア&メイク/AKANE 構成・文/山下シオン
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。