演出家によって導かれるシェイクスピアの世界観
本作で彼が演じるのはジョン王の兄で先王のリチャード1世の私生児だと名乗るフィリップ・ザ・バスタード。役を切り替えることには難しさがあったのか。
「役を引きずるということはなかったのですが、正直いって自分自身の心の切り替えが追いつけていないことに悔しさを感じながら取り組んでいます。鋼太郎さんの演出の話や本読みをして役を立ち上げているところなんですが、初めて読んだ頃は感じなかったことに気づきました。自分が演じるフィリップはのちにリチャードという名前になって物語の中で、ものすごく成長するんです。それを感じてからは、役に面白みを感じています」
信頼を置く吉田鋼太郎さんから初めて演出を受けることについても伺った。
「おそらく鋼太郎さん自身が見たいシェイクスピアの世界観というものがあって、そこへ俳優たちを導きたいという思いがあると思うんです。それでいてみんなの意見も聞いてくれて“そういう気持ちさえあればどういうアプローチでも構わない”といいつつ、稽古をやっているうちに段々熱くなって、気がついたらみんなが“吉田鋼太郎”になっている(笑)。僕は鋼太郎さんが演出・出演された『ヘンリー八世』も観ましたが、シェイクスピアの言葉で巧みに遊びつつもお客さんを楽しませることができて、役が明確に見えてくる人ってなかなかいないんですよね。鋼太郎さんってそこがすごいと思います。
シェイクスピアの作品は最終的には演出家次第だと僕は思っており、鋼太郎さんは蜷川さんを踏襲している部分もあると思います。蜷川さんもおっしゃっていましたが、シェイクスピア作品はどこかを拡大させていかないとなかなかその世界観を見せることができないんです。その点から考えても鋼太郎さんの演出には常に熱みたいなものを置いておかなければならない部分があります」
二人が描いている光景を目にする瞬間が待ち遠しい。常に役に没頭している小栗さんには自分のための時間はあるのか。
「これだけ役のことを考えながら過ごしていると“自分って何だろう”という感じになってしまうんですよね(笑)。強いていうならゲームをするときが幸せかもしれない。サウナで台詞を覚えて、水風呂で台詞をしゃべって、ドラクエをして、またサウナに入ることかな(笑)」
小栗 旬(おぐり・しゅん)
1982年、東京都生まれ。子役として活動を始め、『GTO』(1998年)でテレビドラマに初レギュラー出演。主な出演作にドラマ『花より男子』(2005年)、『信長協奏曲』(2014年)、『日本沈没-希望のひと-』(2021年)、映画『クローズZERO』(2007年)、『岳-ガク-』(2011年)、『銀魂』(2017年)、『罪の声』(2020年)など。『シュアリー・サムデイ』(2010年)では映画監督デビューを果たす。舞台では蜷川幸雄演出の『ハムレット』(2003年)に出演し、以降『カリギュラ』(2007年)では初のタイトルロールを務めたほか、河原雅彦演出の作品や劇団☆新感線に客演するなど、幅広く活躍。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では主演を務め、深い人物像を描いた。
彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』
芸術監督の蜷川幸雄のもと、ウィリアム・シェイクスピアの37作の戯曲を上演しようと1998年からスタートした「彩の国シェイクスピア・シリーズ」。2020年に第36弾として上演する予定だった『ジョン王』はコロナ禍で公演自体が中止となり、2021年5月に第37弾『終わりよければすべてよし』の上演でいったんシリーズは完結した。しかし、「『ジョン王』を上演してこそ、完結する」という演出も手がける吉田鋼太郎の思いから決定した公演である。
登場人物をすべて男性キャストが演じる“オールメール公演”で、出演は小栗 旬、吉原光夫、中村京蔵、玉置玲央、白石隼也、高橋 努、植本純米、吉田鋼太郎ほか。
S席1万1000円(全席指定)ほか
ホリプロチケットセンター:03(3490)4949
※埼玉、愛知、大阪公演あり
表示価格はすべて税込みです。
撮影/永田忠彦 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/みち子〈SUNVALLEY〉 スタイリング/臼井 崇〈THYMON Inc.〉
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。