365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
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濃いピンク色の小さな花が繊細な雰囲気のオカメザクラ。2月下旬から咲き出しています。■属科・タイプ:バラ科の落葉高木
■花期:2月下旬〜中旬
イギリスで育種され、里帰りしたサクラです
2月から咲くカワズザクラ(河津桜)に続き、2月下旬から開花する早咲きのサクラの一つにオカメザクラがあります。
オカメというのは品種名なので、正しく書くとサクラ‘オカメ’となります。なぜ表記にこだわるかというと、このサクラはイギリスで生まれたからです。学名はPrunus incamp cv. Okame。学名でもちゃんとオカメと記されているのがおもしろくて、ぜひ紹介したいと思いました。
イギリス人のコリングウッド・イングラム氏がマメザクラとカンヒザクラを交配し、1947年に誕生したのがオカメザクラです。
イギリス生まれのサクラがあること、そしてイギリスにもサクラの研究家がいたことに驚きました。日本のサクラに惚れ込んだコリンウッド氏は、関東大震災後に近代化する日本の様子を見て、自宅の庭に何種類ものサクラを植えて保存する活動しました。秋咲きのサクラとして日本でも人気のある‘アーコレード’も作出するなど、日本のサクラに大きな影響を与えています。
さて、おかめといえば福笑いでおなじみの笑顔を思い出す方が多いと思いますが、古くは美人を表す言葉でした。ソメイヨシノに比べると花はずっと小さく花径1.5cmほど。
しかし、濃いピンクの花弁と紅色のがくが美しく、下向きに咲く姿には風情があります。それを美人の姿に重ねてコリンウッド氏がおかめと名づけたのかもしれません。
ちなみにオカメザクラは花が開ききらないのが特徴です。散歩道で見つけたものの、まだ開いていないから写真を撮るのはまたにしようと判断すると、いちばんきれいな時期を逃してしまうことになるので気をつけてください。
花は開ききらず、下向きに咲きます。がくの紅色もよく目立つので、木全体を見ると花弁の色より濃い印象に感じられます。マメザクラの性質を受け継ぎ、オカメザクラもコンパクトな樹形に育つため、狭いスペースでも栽培しやすく、最近では個人邸の庭木として注目されています。京都の長徳寺、北鎌倉の建長寺などはオカメザクラの名所としてよく知られます。
また、神奈川県小田原市の根府川沿いにはオカメザクラが何本も植えられ、毎年2月下旬から「根府川おかめ桜まつり」が開催されます。ソメイヨシノの開花の前に、イギリス帰りのかわいらしいサクラを見に出かけるのもおすすめです。
栽培の難易度
日当たりがよく、肥沃で水はけのよい土壌に植えます。植えつけ時に元肥を施せば、追肥の必要はありません。翌年以降は花後の5月と12月くらいに緩効性肥料を施します。地表近くにまくと根が養分を求めて上がってしまうため、株の周囲に穴を掘って施すようにします。水やりは雨まかせでかまいませんが、幼木の間は土壌が乾いたら水やりをします。剪定は12月から翌年1月に行います。枯れ枝や古い枝を切り落とします。新しく伸びた枝には花芽がついているので、落とさないように気をつけます。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。