息をのむほどに繊細で高度な技術、豊かな色彩、常識にとらわれず、新しい挑戦を続けるスピリット。江戸時代から続く日本の伝統工芸「香川漆芸」と、天才時計師率いるスイスの時計ブランド「フランク ミュラー」に共通する、特筆すべき美点です。それぞれの分野で究極のものづくりを追求している両者が初めてタッグを組み、夢のコラボレーションが実現しました。 フランク ミュラーの傑作モデル「トノウ カーベックス」と「ロングアイランド」の文字盤に、香川漆芸独自の技法「蒟醤(きんま)」で加飾を施したのは、人間国宝の山下義人さんと3名の実力ある作家たちです。 腕時計の文字盤への加飾は全員初めての試みで、作家人生で最小の対象物。作業をさらに難しくしたのは、フランク ミュラーの特徴である文字盤の湾曲と、仕上がりの厚みを0.75~0.8ミリの間に収める精密さを要したことでした。数々の難題を突破してついに完成を見た6本は、和洋の美が響き合う名作です。
人間国宝 山下義人 1951年香川県生まれ。人間国宝の磯井正美氏に蒟醤を、田口善国氏に蒔絵を学ぶ。日本伝統工芸展等での受賞歴多数。2007年紫綬褒章、21年旭日小綬章受章。13年重要無形文化財「蒟醤」保持者(人間国宝)認定。後進の育成にも情熱を注ぐ日々。 天才時計師 フランク ミュラー 1958年スイス生まれ。時計の修復師から、時計師の道へ。トゥールビヨンをはじめ、30本以上もの世界初の超複雑腕時計を発表。92年自らのブランドを設立。卓越した技術と流麗なフォルム、独創的な文字盤からなる時計で世界を魅了し続けている。 人間国宝 山下義人が挑んだ“史上最小”の漆芸作品
ゆらめく炎のように心を照らす小さな芸術(アート)
山下義人「煌めき(きらめき)」 「時計の格にふさわしい重厚感と豪華さを出すために、透明度の高い透き漆と金粉を25回塗り重ねました」と山下さん。ブランドの代名詞であるビザン数字のインデックスは、ゴールドと相性のいい紫。メンズモデル。「トノウ カーベックス」(18KPG、ケース50.4×36ミリ、自動巻き、オーストリッチストラップ)396万円/フランク ミュラー 背景/香川県漆芸研究所修了作品(右下・阿部麻海作、左・中村早也香作) 情熱の赤、粋な新橋色。ゴールドの煌めきを湛えて
山下義人「左・清流(せいりゅう) 右・あかね」
「煌めき(きらめき)」と対になるものとして山下さんが考案、制作。新橋色とは新橋の芸者衆に好まれた鮮やかな青緑色のこと。赤の文字盤にはルビー、新橋色にはサファイアのカボションを合わせた。ともにレディースモデル。「トノウ カーベックス」(18KPG、ケース35×25ミリ、クォーツ、クロコダイルストラップ)各198万円/フランク ミュラー 背景/香川県漆芸研究所修了作品(渡辺真理作)