ジュリエット・シャーマン=バークの神話占星術
神話には時代や国、文化を超えて、私たち誰の心にも響く普遍的なメッセージがあります。2023年以降の大きな変化を乗り越えていくための鍵も、ギリシャ神話と占星術の中にありました。
ジュリエット・シャーマン=バークサイコセラピスト、タロット・占星術研究家。心理占星学センターにて教鞭をとる。占星術の心理臨床への応用分野でパイオニアといわれるリズ・グリーンとの共著『神託のタロット』(原書房)がある。
ペルセポネとパンドラの箱の物語
〔語り・ジュリエット・シャーマン=バーク〕
ギリシャ神話と占星術は同じ源から生まれている
私は幼い頃から、両親におとぎ話をたくさん読んでもらったので、おとぎ話や神話が大好きでした。
大人になってから占星術に興味をもつようになり、ユング派分析家で占星術家のリズ・グリーンとの出会いを通して、占星術やタロットが神話と深い関連があることを知りました。今では学生に神話や占星術について教えています。
占星術の授業で理論を説明すると、皆すぐに眠くなってしまうようですが、神話について語り始めると一瞬にして目を覚まします。私の幼い孫も同じ。おとぎ話を聞かせると、目を輝かせて耳を傾けます。
何千年も昔から伝わる神話やおとぎ話には、国や民族や時代を超えた普遍的なメッセージ、「人類の遺産」ともいえるものがあるからでしょう。神話はまさに「魂で理解する言語」なのです。
スイスの心理学者、カール・グスタフ・ユングが提唱した「ユング心理学」をご存じでしょうか。世界には異なる宗教や神話があり、さまざまな神々が登場しますが、どの神話にもその核となる部分は似通っている。それは「集合的無意識」の表れだとユングはいいました。
時代や国、文化、民族を問わず、人類を心の奥深くでつなぐもの――不安や恐れ、希望の対象は、今も昔も全く変わっていないのです。神話は事実ではないけれど、そこに綴られている内容は真実なのです。
よく「個人が見る神話が夢、集団が見る夢が神話」といわれますが、占星術も神話も同じ人々の無意識から生まれています。私は特にギリシャ神話に親しんでいるので、ここで一つ例を挙げてお話ししましょう。
ペルセポネと春の訪れ
《プロセルピナの略奪》ペルセポネはローマ神話ではプロセルピナといわれている。冥界の神に一目惚れされ、連れ去られてしまう。プロセルピナはローマでは春をもたらす農耕の女神とされている。
(レンブラント、1606 ~ 1669年、ベルリン国立絵画館美術館)大地を司る女神ペルセポネは、豊穣の女神であるデメテルの娘です。
ある日、ペルセポネが花摘みをしていると、冥界の神ハデスがペルセポネに一目惚れし、自分の妻にするために冥界へ連れ去ってしまいました。悲しみに暮れた母デメテルは、「娘が戻ってくるまで草木も作物も一切育たない」としました。
すると、地上の植物は枯れ果ててしまいました。困った神々は相談した結果、ペルセポネは一年の半分を地上の母親のもとで、残りの半年を冥界の夫のもとで暮らす、と決めました。
毎年春にペルセポネが地上に戻ってくると、デメテルは喜び、大地に花を咲かせ、夏には果実を実らせます。秋になり娘が冥界に帰ると、再び草木は枯れてゆきます。
《ペルセポネの帰還》大地を司る女神ペルセポネは、冥界の神ハデスの妻でもある。年の半分を地上の母デメテルのもとで暮らす。ペルセポネが地上に戻ると春が訪れ、草木は芽吹きだす。
(フレデリック・レイトン、1830 ~1896年、英国リーズ美術館)古代人はこのようにして、移りゆく四季を物語で理解してきました。この神話は事実ではないけれど、誰でも心で理解できるでしょう。
これは季節だけではなく人生における喪失とその回復の物語でもあります。また、この物語は乙女座に象徴されていますが、乙女座はペルセポネが地上から姿を消し、デメテルが悲しみに暮れる秋冬の夜空に見ることはできません。
神話の世界は心理学的にも占星学的にも実に奥深いのです。
2023年からは激動の年が続く。「パンドラの箱」を思い出して
2023年は冥王星が星座を変えてゆくため、地球も大きな転換期を迎えます。3月に冥王星は現在滞在している山羊座を後にして、水瓶座へと移動します。今後20年で人類は大きな変化に直面するでしょう。
新しい時代が到来し、何千年も続いてきた人類と地球との関係は激変し、私たちはそれに適応していかなければなりません。富やお金を追求する物質主義の世は終わりますが、私たちは必ずしも不幸せになるわけではありません。幸せの定義、価値観を変えればよいのです。
これからは富やお金、権力ではなく、健康や家族や友人との人間関係、そして自分にとって真に意義のある仕事を見つけることが幸せの鍵となるでしょう。
《パンドラ》大神ゼウスは絶世の美女パンドラに一つの箱をもたせて、地上に送った。その箱にはあらゆる病気や災いが入っていたという。ところが、そこには人類を救う「あるもの」も入っていた。ギリシャ神話の「パンドラの箱」を私は思い起こします。
ティターン神族の神プロメテウスは当時ほかの動物のような強さをもたなかったか弱い人間を不憫に思い、天界の「火」を盗んで人間に与え、文明を築かせました。それを知った大神ゼウスは激怒し、一種の罠としてパンドラという絶世の美女を作り、地上に住むプロメテウスの弟、エピメテウスのもとに送りました。
そのとき「絶対に開けてはならぬ」といい含めてあらゆる病気や災いを詰めた箱をパンドラに渡したのです。パンドラはエピメテウスの妻となり、しばらく幸福に暮らしていましたが、あるとき箱が気になって開けてしまいます。
すると、箱の中から病気や憎しみ、妬みなどのあらゆる悪が煙のように舞い上がり、地上に広がっていきました。人類の苦難はここから始まったのです。ただし、箱の中に残ったものがたった一つ……それは「希望」でした。
この物語から汲み取れるように、私たちは何が起きようと、希望を忘れてはいけません。この神話はきっと、2023年からの私たちの支えになってくれるでしょう。