住空間にも生かす茶花のこころ、
季節を感じ、花の自然な姿を素直に入れてみる
茶的精神を感じる一つの方法として住空間で花を入れる例をいくつか挙げます。あらためて部屋の中を眺めると、テーブルやサイドボードの上などはもちろん、作り付けの棚、光の入る窓際や部屋のちょっとしたコーナーなど、花を置く場所は思いのほか存在します。
このとき、留意したいのは空間の広がりです。茶席の床の間がそうであるように、茶の花が必要としている空間は物理的なスペースだけではなく、そのまわりの「間(ま) 」。
置けるからといって、ものがぎっしり詰まった空間ではその美しさを生かしているとはいえません。
プリミティブな古い土器に、白い椿を一輪、洋間の家具の上にさりげなく加賀八朔椿(かがはっさくつばき)
土器 インドネシア・ジャワ
住空間の中で「茶花」を楽しむ一例。茶席では椿は蕾を用いるのが定石だが、開いてしまった椿を古い土器に入れ直して生かす。茶の湯では、引き算をするという考え方がとても重要で、数あるものの中から何を残すかを見極めることが大切なのです。切り捨てて切り捨てて、残るもの。これは茶に限らず、禅的精神にも繫がる日本独特の世界観です。
空間だけではなく花についても同じで、茶席の花もまた引き算です。最初から引いた姿を作れないなら、一度すべてを足してから引いてみるのです。
谷松屋には花上手が一人おり、今回も実際に花を入れるのはその小林 厚が担当します。もともと冒頭の友人のところで修業をし、谷松屋に来て二十数年が経ちますが、花に対して生まれ持っていた才能とともに、さまざまな状況下で数をこなして鍛えられた彼の花には無駄がありません。
そばで見ているとこちらがびっくりするほどに、ためらいなく、ぽんぽん、とんとん枝葉を切っていく。それでいて最後に花入に収まったものは素晴らしい。花材を見たとき、彼の頭の中にはすでに出来上がった花が視えているのです。
戸田 博さんの意思を汲み、実際に花を入れるのは谷松屋戸田商店に勤める小林 厚さん。道具にも通じ、茶会・茶事では花も担当する。そして花とともに重要なのが花器。いわゆる茶道具として作られた花入にこだわらず、自分が「美しい」と感じる器を選ぶことが大切です。美しいと感じるものなら花器でなくても構いません。むしろ先入観にとらわれず、引き算をしたときに美しいものだけが残るのがお茶です。
竹花入の強く直線的なフォルムと蔓性の花の曲線が、互いの魅力を引き立てる椿、木通(あけび)
一重切竹花入 片桐石州在判
小間の茶室で壁に花入を掛ける「向掛」。客が仰ぐように花を眺める視線を想定して花を入れている。木通の枝の曲線を生かしつつ、添わせる椿の向きも重要。存在感のある一重切竹花入は江戸時代初期の大名茶人、片桐石州の作。〔ワンポイント〕枝を落とす前に花器の前で仕上がりをイメージする花に鋏を入れる前に、花器の前で「花づもり」をすると、どの枝が必要でどの枝を落とせばよいかイメージしやすくなります。木通のような蔓ものは手でくるりと枝を巻いて、様子のよい生かしたい箇所を見極めていきます。