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谷松屋戸田商店 戸田博さんが語る季節の茶花。3月侘助「蕾が宿すいのちの息吹」

2023.02.17

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花器選びは花の楽しみの一つ。
茶道具の中でも花器には見立てが多いのが特徴です


谷松屋戸田商店は、大阪の船場伏見町で代々茶道具を商う家です。江戸時代初期から三百年余の歴史を持ち、古くは松平不昧などの大名家、近代に入ってからは実業数寄者などの名家に出入りしてきました。

私はその谷松屋の十三代目として、先代の父の教えのもと名物記に記される茶道具などを扱う一方、現代の茶に適う器として、プリミティブアートや現代作家の作品なども取り上げてきました。




まるで山の中からひと枝選んで伐ったかのような佇まいを凜とした白磁壺に
木瓜(ぼけ)
白磁壺 黒田泰蔵作
木瓜の枝ぶりの厳しさを受け止める、緊張感あるフォルムの壺。小さな口が自然に花留めになり、枝を安定して入れられるのも利点。


今回使用した花器も、古銅水瓶、竹花入、現代作家の白磁、インドネシアの古い土器など多岐にわたります。竹花入のように花入として生まれたものもあれば、古い時代に花器に見立てられたものもある。

茶道具の中では、水指や花入に見立てが多くみられますが、本来の役割と異なる道具や器を茶室に持ち込んで見立てる基準は、私は「見飽きないもの」ではないかと思っています。

茶の花器はたんに花を入れる道具ではなく、それ自体にものとしての力があることが肝要なのです。これは花器に限ったことではなく茶道具全般にいえることで、それは茶の湯がその人の審美眼でもって一つの世界を作り上げるための必然といえましょう。



1ページ目で用いた古銅水瓶を箱から出し、あらためる13代目当主の戸田 博さん(左)と、小林 厚さん(右)。うしろに掛かる「弌玄菴(いちげんあん)」の文字は、江戸時代の松江藩主でもあり、茶人でもあった松平不昧の書。不昧から賜った谷松屋戸田商店の屋号である。

たとえばこの古銅水瓶はもともと仏教祭器だったのですが「花を入れたら美しかろう」と、小堀遠州が花入に見立てたもの。箱の表に遠州の筆による「すいひやう花入」の文字が記されています。

この字がまた実によい。私は美術商ですから箱などの次第にも目がいきますが、器自体を観てもとてもシンプルでありながら存在感があります。



古銅水瓶の箱書。「すいひやう花入」の文字は、江戸時代初期の大名茶人小堀遠州の筆による。本来花を入れる道具ではないものを、遠州が花入として見出したことがわかる。

このように花入として人が使いたくなるものは、必ずしももともと花器とは限りません。古くに見出されたものもあれば、ごく最近に花器として見立てられるものもあるというのも、時代に関わらず人は美しきものを求めるフレキシブルな精神を持っているということです。実に面白いですね。

谷松屋戸田商店 季節の茶花

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