知の世界遺産へ。ザンクト・ガレン修道院
町の名の由来は、聖ガルス。はるばるアイルランドからこの地に辿り着き、列聖されるほど崇められた7世紀の修道士からきています。壮麗な聖堂、世界屈指と称えられる図書館。珠玉のような文化遺産をうち懐に抱えた穏やかな町の佇まいがまた魅力的です。
612年に聖ガルスが結んだ庵に起源を持つザンクト・ガレン修道院は、中世ヨーロッパの学問の中心地。現在の大聖堂は18世紀に改修され、後期バロック建築の傑作といわれる。【町のシンボルは美しき“学問の総本山”】蔵書およそ17万冊、世界最大級の中世図書館。スマートフォンを預け、寄木の床を保護するための専用スリッパを履いてくぐるその入り口には、「魂の療養所」と書かれた銘板が掲げられている。©Switzerland Tourism中世の面影が残る、大聖堂と刺繡の町
チューリッヒ空港に降り立ち、その地下にある駅から列車に乗り込めば、1時間もしないうちにザンクト・ガレンに到着します。スイス北東部、ドイツ、オーストリアがもうすぐそこというこの地は、歴史ある都市の活力と、遠来の旅人を優しく包む空気を併せ持っています。町の中心は、8世紀からの由緒があり、1983年に世界遺産に登録された修道院。界隈は車の通行が制限されているため、のんびりと町歩きを楽しむことができます。
大聖堂の内側に入るなり、清らかな光の中に身を置いたような気分になる。マラカイトグリーンの軽やかな装飾に囲まれた天井画には、聖人たちとともに聖ガルスの姿も見られる。町の名前にもなった守護聖人ガルスの伝説も、この土地の親しみやすさを象徴しているようです。伝道の旅の途上、ガルスはこのあたりの森で倒れてしまいました。するとそこに熊が出現。しかし彼は怯みませんでした。
ガルスの威光に浴した熊は彼が体を温めるための薪を運び、その代わりガルスは熊にパンを与えたのだとか……。そんなわけで、町中で目にする聖人像にはしばしば熊が付き従い、薪やパンと共に描かれていることもあります。
「赤い広場」は2005年から親しまれている現代アート作品。近代的な界隈の風景に遊び心と温かみを添えている。発祥からしてすでに物語めいたザンクト・ガレンはまた、世界的に有名な繊維産業の町。第一次大戦以前、世界の刺繡生産量のおよそ半分がザンクト・ガレン産だったといわれるほどで、繁栄の軌跡はその町並みからも感じ取ることができます。
そしてオートクチュールの世界で、その名声は今も健在です。オバマ大統領就任時のミシェル夫人の衣装、俳優ジョージ・クルーニー夫人の婚礼用ドレスにも、この町のテキスタイルが使われていました。
修道院図書館が知の総本山なら、織物博物館は美の殿堂。過去の刺繡パターンだけでも400万種収められており、それらは今もクリエーターたちの創造の源になっている。アインシュタイン ホテル ザンクト ガレンEinstein St.Gallen
Berneggstrasse 2, 9000 St. Gallen
TEL:+41 71 227 55 55
www.einstein.ch膨大なテキスタイル資料を所蔵する織物博物館。ザンクト・ガレン織物博物館Textilmuseum St.Gallen
Vadianstrasse 2
9000 St. Gallen
TEL:+41 71 228 00 10
www.textilmuseum.ch今回ご紹介したユングフラウを訪ねる家庭画報の旅を、『家庭画報2023年4月号』の253~257頁でご紹介しています。ぜひご覧ください。
撮影/武田正彦 取材・文/鈴木春恵 協力/スイス政府観光局
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。