絶景鉄道でゆくスイス 第2回(全4回) 標高4000メートルを超える白銀の世界。中世の昔からつとに聞こえた知の聖地。湖を抱いて輝く葡萄畑。スイスの素晴らしいところは、そうした憧れの世界遺産を鉄道が繫いでいることです。目指す場所も道中の車窓も感動連続の鉄道旅へ、さあ、出かけましょう。
前回の記事はこちら>> 氷の世界遺産へ「ユングフラウ–アレッチ」
標高4000メートル超のユングフラウ山まで鉄路を敷くというスイスの鉄道王が抱いた途方もない夢が現実となったのが1912年。以来100年以上にわたって私たちを魅了し続けてきた氷の世界への旅は、コロナ禍の間にも驚くべき飛躍を遂げていました。
ユングフラウヨッホ駅を降りて歩を進めると、まもなく「アイスパレス」の氷河の中の回廊へ。氷河は今でも流れ続けていて、1年間に15センチほどずれが生じるため補修が欠かせない。トップ・オブ・ヨーロッパのVIPな楽しみ
スイスの鉄道王アドルフ・グイヤー=ツェラーは、ユングフラウ三山の麓でのハイキング中に、山の上まで列車を走らせるというとてつもない構想を抱きました。日本でいえば明治維新から間もない頃のことです。アイガー、メンヒの山中にトンネルを掘って鉄道を通すという大工事は1912年に見事完了。
ヨーロッパ最高点の駅ユングフラウヨッホまでの鉄道が開通しました。トンネルを走るために蒸気機関車ではなく電気機関車が選ばれたことで、まずは発電所作りから着手。ロウソクで食事をしていた時代、それがいかに画期的な事業だったかわかります。
そして現在。世界中の人々が「一生に一度は……」と憧れる地は、さらなる進化を遂げています。
起点になる町インターラーケンから、まずは登山電車で高みへ。そこまでは以前と同じですが、グリンデルワルト駅の一つ手前に新しく「ターミナル」という駅(標高943メートル)が誕生しました。
インターラーケンの町から専用ケーブルカーでアクセスするハーダー・クルム。ユングフラウと町とを一望しながら食事が楽しめる。そこから標高2320メートルのアイガーグレッチャー駅まで、最新鋭ロープウェイ「アイガー・エクスプレス」がなんと15分で運んでくれるのです。
最先端の空港のようなターミナル駅には、アイガー北壁を望むVIPラウンジも誕生。そこでくつろいだ後、シャンパーニュ片手に山々を眺められるVIPゴンドラに乗車するというラグジュアリーなプランも用意されています。
2020年12月にオープンしたターミナル駅のVIPラウンジ。ゴンドラの発着がよく見える。そしてアイガーグレッチャー駅からは、100年以上の歴史あるユングフラウ鉄道で氷の世界へ。世界最高峰のリゾート地はいつの時代も、尽きない夢を鮮やかに形にしてくれます。
「アイガー・エクスプレス」ゴンドラの中でも特別なVIPゴンドラ。©jungfrau.ch今回ご紹介したユングフラウを訪ねる家庭画報の旅を、『家庭画報2023年4月号』の253~257頁でご紹介しています。ぜひご覧ください。
撮影/武田正彦 取材・文/鈴木春恵 協力/スイス政府観光局
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。