2022年7月に自身の勉強会として開催した「第七回翔之會」では、初めて『船弁慶』に挑戦させていただきました。父(5世中村富十郎)の当たり役であり、生涯をかけて演じた作品です。
今回の勉強会を通して、改めて父のことや『船弁慶』について、ご縁のあるかたがたからお話を伺うことができました。
“100日の稽古より1日の本番”という言葉をよく耳にしますが、2日間勤めたことで、それを肌で感じ、また父は常々「踊りは音楽が大事」といっていましたが、実際にそのことを痛感いたしました。
『船弁慶』は音楽としても素晴らしい作品です。静御前は洗練され、無駄がそぎ落とされた動きの中で表現しなければなりませんし、知盛は義経への怨念など激しい感情をぶつけなければなりません。
父の『船弁慶』を映像で見ながら“何十年もかけてこれを創ったんだ”と気づいたとき、涙が止まりませんでした。
『船弁慶』の平知盛の霊。2022年7月、「第七回翔之會」より。撮影/小川知子そして2023年2月の歌舞伎座では、父の十三回忌追善狂言として『船弁慶』を勤めさせていただきます。
勉強会でもそうでしたが、静御前の衣裳や鬘帯は、父と同じものを使わせていただきますので、感慨深いものがあります。
父の『船弁慶』に携わってくださったかたがたが当時のことを教えてくださることも、私にとって大きな財産です。このような機会をいただいたことに感謝し、諸先輩がたの胸をお借りして精一杯勤めさせていただきます。
中村鷹之資
1999年東京都生まれ。父は5世中村富十郎。2001年4月歌舞伎座『石橋』の文殊菩薩を勤め中村 大を名乗り、初舞台。2005年11月歌舞伎座『鞍馬山誉鷹』牛若丸で初代中村鷹之資を披露。2011年12月『元禄忠臣蔵』の細川内記を勤め、国立劇場奨励賞を受賞。父の三回忌となる2013年から始めた勉強会「翔之會」は回を重ね、2022年7月には『供奴』と『船弁慶』を勤めるなど、研鑽を積んでいる。
今月の歌舞伎
【歌舞伎座】
歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎
~2023年2月25日(20日は休演)
●第一部 11時開演
『三人吉三巴白浪』
●第二部 14時30分開演
一、『女車引』 二、新歌舞伎十八番の内『船弁慶』
●第三部 17時30分開演
通し狂言『霊験亀山鉾』
※中村鷹之資さんは「五世中村富十郎十三回忌追善狂言」として第二部の新歌舞伎十八番の内『船弁慶』の静御前/平知盛の霊役で出演します。
1等席1万6000円ほか
チケットホン松竹:0570(000)489 表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/AKANE
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。