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【単独インタビュー】話題の新星ピアニスト、イム・ユンチャンが奏でる魔法の音

2023.03.10

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話題の新星ピアニスト イム・ユンチャン 魔法の音 第1回(全3回) クラシック界に出現した若き天才イム・ユンチャンさん。2022年6月、第16回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにおいて史上最年少の18歳で優勝。ファイナルの演奏曲ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」はYouTubeで配信され、2022年12月末で917万回を超える再生回数となるなど、今、熱い注目を集める時の人です。ピアノ・リサイタルのため初来日したユンチャンさんに単独インタビューが実現。ピアノの前での情熱ほとばしる姿とはまた違う、ピュアな青年の素顔も魅力的でした。

「まだまだ足りないものが多く音楽家として成長過程なので今後も努力し続けていきます」


イム ユンチャン写真/Lisa-Marie Mazzucco

イム・ユンチャンさん(Lim Yunchan)
2004年3月、韓国始興市生まれ。韓国芸術総合大学在学中。7歳でピアノを始め、翌年ソウル・アーツ・センターの音楽アカデミー、13歳で韓国芸術英才教育院に合格。2022年12月に発表されたニューヨーク・タイムズ紙の「今年の10大クラシックベストパフォーマンス」にも選出。「いずれ、子どもの施設や音楽に触れる機会が少ないかたがたのために演奏するのが夢です」。

7歳でピアノに出会い、選択したのが運命だった



──ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにおける最年少での優勝。改めてどう感じていますか?

イム・ユンチャンさん(以下Y) 2022年は僕にとっていちばん難しかった年でした。コンクールの準備期間中は週に4日徹夜で練習したり......。仕方ないことなのですが、誰かは受かり誰かは落ちるという、結果が明確に出るのも辛いものです。

──何が難しかったと思いますか?

Y あまりに急に変わったので、今の状況すべてが大変なことは確かです。人生の中でこれほど飛行機に乗ったことはないですし。アーティストビザで入国すると、「こんなに若い子が?」と検問で引っかかってしまったり。コンクールのときはコンクール用の曲だけを準備していたのですが、優勝後は公演に向けて新しい曲が必要ですよね。そのために今はもっと練習が増えているので、この道の厳しさを実感している毎日です。ただ、今までで最も大変ではありましたが、同時に個人的には自分の音楽が前に進み、発展できた年でもありました。

横顔

──今までの人生でピアノ以外に目が向いたものはありましたか?

Y 7歳までは警察官にもなりたかったし、スポーツもやりたかったんです。でも、ピアノに出会ってその道を選択してからは、ほかのものが何も目に入らなくなって。自分でも不思議なのですが。

──7歳でそう感じたんですね!

Y 僕は人間の運命は定められているのだと思っています。生きていく中でさまざまな選択をして、それにより人びとの人生も変わっていく。僕にとって、7歳でピアノを選択したときが重要な瞬間だったのです。

ピアノリサイタル

2022年12月3日、イム・ユンチャンさんの日本初となるピアノ・リサイタルはサントリーホールにて行われた。リスト「二つの伝説 S.175」、「巡礼の年/第2年:イタリア」より『ダンテを読んで─ソナタ風幻想曲 S.161-7』では、椅子から腰が浮き上がり、髪が乱れるほどの激しい熱情をたたえた演奏を披露。

音楽家の道へと導いたもの、そして師匠との出会い


──ターニングポイントだと思う出来事があればお聞かせください。

Y 2回あったと思います。まずひとつは8歳のとき。『芸術の殿堂』という早朝番組で、ソウル・アーツ・センターの「音楽アカデミー」のドキュメンタリーがあったんです。その番組が放映されると知った叔母さん(母の妹)から電話がかかってきて「絶対、ユンチャンに見せるべきだ」と。朝早くて眠かったのですが、頑張って起きてその番組を見た途端「この音楽アカデミーになんとしても行きたい!」という気持ちになったのです。もしその番組を見なかったら、僕は“ただピアノが好きな人”で終わっていたかも......。

ふたつ目は、韓国芸術英才教育院のオーディションを受験したこと。韓国芸術総合学校は韓国最大の音楽院でもあるのですが、そこに中学生までの子どもたちに英才教育を施す韓国芸術英才教育院があるんですね。よく知らないのになぜだか「自分はその試験を受けるべき!」とインスピレーションが湧いたんです。13歳で合格し、師匠となるソン・ミンス先生にも出会うことができました。

楽譜

魔法の音が生み出されるユンチャンさんの手と、日本公演のために韓国から持参したバッハ「シンフォニア」の楽譜。「演奏するときはいつも、作曲家がその曲を作ったときの心情に想いを馳せ、自分の解釈を寄り添わせる」と語る。

「ピアノを通じて希望のメッセージを伝えたい」


──ピアノはどんな存在ですか?

Y 最初はただひたすら音楽が好きだったので、ピアノは僕の情熱を満たすものだと考えていました。でも、師匠のソン・ミンス先生が以前「影響力を持つ存在になったのならば、人びとにいい影響を与え、温かい言葉を伝える人になりなさい」と僕に話してくださいました。

こうして音楽家になった今、自分のベストを尽くして作った音楽を通じ、ピアノで人びとに希望のメッセージを伝えていきたいと思います。




イム・ユンチャン ヒストリー


イム・ユンチャン ヒストリー

2004年 3月20日、韓国・始興市にて誕生。

2011年 7歳でピアノを始める。

2012年 8歳でソウル・アーツ・センターの音楽アカデミーに入学。

2017年 13歳で韓国芸術英才教育院に合格し、その後、教師・指導者のソン・ミンスに出会う。

2018年 クリーブランド国際ピアノコンクール2位及びショパン特別賞受賞。クーパー国際コンクールで最年少参加者として注目を集め、さらに、ピアノ部門3位及び聴衆賞を獲得。

2019年 最年少の15歳で、ユン・イサン国際音楽コンクールピアノ部門1位及び2つの特別賞受賞。

2022年 6月、史上最年少でヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール1位、併せて聴衆賞、最優秀新曲演奏賞受賞。

2023年 現在、韓国芸術総合大学在学中。ソン・ミンスに師事しながら、ピアニストとして活躍中。

〔特集〕話題の新星ピアニスト イム・ユンチャン 魔法の音(全3回)

撮影/鍋島徳恭 通訳/岡田恩圭 取材・文/小松庸子

『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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