365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
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中心部が赤や黄色になる花が多い中、ナシの花は中心まで純白。白さが際立つわけです。葯のピンクもかわいらしい!■属科・タイプ:バラ科の中高木
■花期:3月下旬〜4月
サクラにも劣らない花の美しさに感激
観光ガーデンを3月下旬に訪ねたときのこと。真っ白な花が咲く高木を見て、これはサクラ?いや何かの果樹かな?とわからず、ネームプレートを探してみると、ピルス・カレリアナと記されていました。
ピルスといえばナシのこと。ナシの開花はこんなに早く、しかもとても美しい花を咲かせることを知りました。調べてみるとピルス・カレリアナはマメナシのこと。秋にはナシに似た小さな実をたくさんつけるそうですが、実のサイズはわずか1cmほど。アズキのサイズであることからマメナシと名づけられたそうです。
マメナシの花。ニホンナシより小さめながら、純白で清楚な美しさは変わりません。私たちが晩夏から初秋にかけて食べる‘幸水’‘豊水’‘ゴールド二十世紀’などは、ニホンナシという種類で、私が見たマメナシ同様、この時期に白い花を咲かせます。私が暮らすエリアは昔から‘長十郎’の産地で、今でも住宅地に点々とナシ農家があり、旬の時期にはもぎたてのみずみずしいナシを味わえます。
実を収穫するためのナシは、もぎやすいように低く、枝が横に張るように剪定されているため、高く伸び、あふれんばかりに花が咲くマメナシを見てもすぐにナシだとは気がづきませんでした。
しかし、ニホンナシもマメナシもよく見るとなんと美しい花を咲かすことか! まるでソメイヨシノを真っ白にしたかのようなです。世の中がサクラに注目するなか、ナシの花の美しさについてはそれほど話題にならないのが少し残念な気もしています。
果樹をたくさん集めた観光ガーデンにちょうどこの時期に出かけてみたら、今では懐かしい品種の‘長十郎’をはじめ何種類ものナシの花に出会うことができました。お近くにナシの木がない場合は、ぜひ、植物園や観光ガーデンを訪ねてみてください。心が洗われるような白い花に出会えますよ。
栽培の難易度
1本では受粉しにくいため、‘豊水’と‘幸水’など異なる品種の組み合わせで2本以上を準備します。日当たりのよい場所で、水はけのよい土壌に植えます。植えつけ時に元肥を施し、たっぷりと水やりします。幼木の間は土壌が乾いたタイミングで水やりをし、成長後は雨まかせにしてかまいません。追肥は2月、花後の5月、そして10月に緩効性肥料を施します。花が咲き始めたら、種類が異なる花同士をすり合わせて花粉を移す人工授粉を行うと、実がつく確率が高くなります。大きな実を収穫するためには、実の数を制限する必要があります。この作業を摘果といい、5月に行います。剪定は落葉期の12月~翌年2月に行います。平行に伸びる枝や交差する枝をカットし、枯れ枝も取り除きます。実が病害虫の被害にあいやすいので、実がついたら早めに袋がけするように気をつけます。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。