365日 花散歩に出かけよう 日々、何気なく歩く道や街で出会う花や花木の名前がわかれば、もっと散歩が楽しくなります。ガーデニングエディターの高梨さゆみさんが、季節の花や花木を毎日紹介。住宅街でも見つかる身近な植物や、人気の園芸品種もピックアップ。栽培のコツも紹介します。
一覧はこちら>> イチリンソウ
外周りのレイズドベッドに咲くイチリンソウ。ムスカリの青と一緒に咲く白い花がとてもさわやかです。毎年このシーンを見せてもらえるのはとても幸せなこと。■属科・タイプ:キンポウゲ科の宿根草
■花期:4月〜5月
■草丈:20〜30cm
純白の春の妖精を見逃さないようにして!
Anemone nikoensis=アネモネ・ニコエンシス。学名を見るとイチリンソウはアネモネの仲間だとわかります。ニコエンシスとは栃木県の日光の意味ですが、本州、四国、九州に自生する日本の固有種です。
固有種と聞くと、散歩道ではなかなか出会えない花だと思われがちですが、そんなことはありません。イチリンソウは観光ガーデンでも個人邸の庭でもよく利用されていて、この季節に見かける機会はたくさんあります。
近所に外周りのレイズドベッド(立ち上げ花壇)にイチリンソウを咲かせているお宅があり、私は毎年、花を見に行くのを楽しみにしています。純白でふんわりした丸い花が咲く景色は、とてもすがすがしく、かわいらしい花だと見るたびに感じます。そのお宅ではイチリンソウと一緒にムスカリも植えていて、白とブルーの花色合わせが本当に素敵で、何年も続けてこの景色を楽しませていただいていることに感謝しています。
イチリンソウは4月~5月に花を咲かせると、気づかぬうちに葉もなくなり、地面から消えてしまいます。でも、春になるとちゃんと芽を出してぐんぐん育ちます。このように春に花を咲かせ、夏前には姿を消して土の中で休眠する植物を春植物、英語ではスプリングエフェメラルと呼びます。
春の一瞬だけ美しい花を見せ、あとは消え去る性質をスプリングエフェメラル=春のはかないものたちと呼ぶセンスは、やはり植物好きのイギリス人だけあるなあと感心します。妖精のような儚さをもつ花だから、なおのことこの花のかわいらしさに引きつけられるのかもしれません。
ひっそりと慎ましく咲いているイチリンソウですが、この花を見つけると春なんだーとワクワクした気持ちになります。暖かいエリアではすでに咲き出しているので、儚きものたちを見逃さないようにしてください。
栽培の難易度
夏前には地上部を消して地中で休眠するので、春は日差しが当たり、初夏以降は徐々に木陰になる落葉樹の下に植えます。風通しがよく、夏にできるだけ涼しい環境になる場所を選びます。植えつけ時に元肥を施し、たっぷりと水やりをします。その後の水やりは雨まかせでかまいませんが、土壌がからからに乾いたらたっぷりと水やりします。翌年以降は、成長期に入る3月に緩効性肥料を株元にまきます。花が終わったら随時、花がらを摘み取ります。
【難易度】
★ 容易・初心者向け
★★ 標準・初級〜中級者向け
★★★ 少し難しい・中級〜上級者向け
★★★★ 難しい・上級者向け
★★★★★ 栽培環境が限られる 高梨さゆみ/Sayumi Takanashi
イギリス訪問時にガーデニングの魅力に触れて以来、雑誌や本などで家庭の小さな庭やベランダでも楽しめるガーデニングのノウハウを紹介。日本、イギリスの庭を訪ね歩くほか、植物の生産現場でも取材を重ねる。