エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2023年3月号に掲載された第20回、森村泰昌さんによるエッセイをお楽しみください。
vol.20 白くておいしく、ピンクでめでたい
文・森村泰昌
おいしいことはすばらしい。そしてここに「めでたい」が加われば鬼に金棒、いや餡子に薄皮である。というわけで、甘いもの好きの私のお気に入りは紅白饅頭である。
山芋を全面的に使用した本格的な薯蕷饅頭ならそれに越したことはない。しかし薯蕷(じょうよ)ならぬ上用でも、あるいは常用でも私はかまわない。どちらかといえばこし餡がいいかなとは思うが、粒餡でも大丈夫である。私見だが、白餡のばあいは粒餡かな。それはともかく、餡がはいっていて、薄皮で、しかも紅白ペアで箱に並んでいるという、あの風情があれば私に文句はなにもない。
小学生の頃を思い出す。あの頃は、ことあるごとに学校で紅白饅頭が出た。入学式や卒業式だけではなく、さすがに節分には出ないが、天皇誕生日とかにはもらったような気がする。そんな気がしているだけかもしれないが、ともかく紅白饅頭が配られる頻度は今よりも確実に高かった。
学校でもらう紅白饅頭は決して高級ではなかった。でもうれしいことに、子供にはじゅうぶんすぎる大きさだった。大きい安物は、薄皮がうまくむける。まず私は薄皮だけをはがしてその食感を楽しみ、それから大きい饅頭を2つに割ってかぶりつく。
3人家族でいただくのだが完食は無理で、翌日に少し持ち越してしまう。すると表面がかたくなる。こんなときは焼いて食べた。コイル状になったニクロム線が熱を帯びて真っ赤になる、あの電熱器なる電化製品に焼き網を置き、紅白饅頭の残りをのせる。すると薄皮が焦げ、蒸したてのもっちり感とは一味違うパリッとした食感が楽しめる。あの頃の私はあくまでも薄皮にこだわっていたようだ。
おとなになってからは、もらってばかりなのも気が引けて、最近は贈り物として配ることがある。もらっても贈っても、同じようにうれしい気持ちが湧きあがる。白くておいしく、ピンクでめでたい。他に類例のない幸せな味だと思う。
森村泰昌美術家。1951年大阪市生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業、専攻科修了。85年、ゴッホの自画像に扮するセルフポートレイト写真を制作。以来「自画像的作品」をテーマに創作活動を行う。89年にベニスビエンナーレ/アペルト88に選出される。プーシキン美術館、国立国際美術館、アーティゾン美術館、京都市京セラ美術館などで個展を開催。2018年大阪北加賀屋にモリムラ@ミュージアム開設。11年秋に紫綬褒章受章。