春の日ざし降り注ぐテーブルで、漆器を主役にしたコーディネート。フルーツやチーズを盛ったのは輪島塗の蓮花唐草沈金の入れ子丸重。右奥には山中漆器の欅(けやき)六ツ組 信玄弁当、左には香川漆器の後藤存清(ぞんせい)の大皿をセッティング。取り鉢には高岡漆器の小判鉢を、輪花の小皿の下に高岡漆器の石目塗のトレーを敷き、香川漆器独特の技法を手もとの部分に取り入れた竹箸を添えて。箸置きはミホ ホリイ作。テーブルクロス、ナプキン/アクセル ジャパン漆器の作り手の工房を訪ねて
日本各地の漆器産地には、それぞれ特有の技法が今に受け継がれ、その土地柄が表れた漆器が作られています。津軽、輪島、高岡、山中、木曽、香川へ、全国漆器展入賞作品の作り手の工房を訪ねて、漆の器作りに懸ける思いを伺います。
【農林水産大臣賞】
艶消しの塗りに線紋を配したモダンな蓋物
須藤賢一(津軽塗)
「LINE」菓子器(赤・黒)
丸く大きな蓋の上に、直線と曲線で赤と黒のラインを配した蓋物一対。ラインには津軽塗の技法の一つ、唐塗に準じた技法を用い、わずかな凹凸をつけている。ともに径33.5×高さ6.7センチ、38万5000円(2点1組)。日本の漆器産地として最北に位置する青森県の津軽塗。その特徴的な技法「研ぎ出し変わり塗り」は、蒔絵が上塗りの上に金で加飾するのに対し、下塗りの上に斑紋をつけて漆を何層も塗り重ね、砥石や炭で研ぎ出して文様を浮き出させます。
複雑な斑点模様が特徴でポピュラーな「唐塗(からぬり)」、下地に菜の花の種を蒔いて魚の卵のような文様を出す「七々子(ななこ)塗」、ほかに「紋紗(もんしゃ)塗」「錦塗」の津軽塗四技法を身につけて伝統工芸士となり、独自の作家活動をするのが須藤賢一さん。
須藤賢一さんは1957年青森県弘前市生まれ。輪島漆芸技術研修所を卒業後、地元に戻りクラフトを主軸に制作。父の八十八さんも漆芸家で、第1回全国漆器展で大賞を受賞、作家として親子2代で大賞を受賞した。曲線と直線で構成した蓋物の菓子器一対は、デザイン力の高さ、「塗り立て」の技術が評価され、美術工芸品部門のトップ、農林水産大臣賞を受賞しました。
赤と黒のラインは、唐塗に準じた技法を用いて、少し盛り上げて仕上げられています。「凸凹があると仕事は面倒になるけど、面白さもあるのではと思って作りました。思ったら人より先にやりたい」と、常に新しいタイプの作品に取り組んでいます。漆の蓋物は食品の保存にも好適。
津軽塗独特の唐塗は、異なる色の漆を塗り重ねた層を、目の細かい砥石や炭で研ぐことにより、下の層の色漆を表面に出す技法。りんごの街、弘前らしく、須藤さんはアップルパイ3種を盛り込みました。蓋をあけると、塗り立ての漆のしっとりとした質感が、パイ生地の焼き色を引き立ててくれます。
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手前から、青森の柿、りんご、静岡のみかんの木の自然な枝ぶりを生かした皿3万5200円~。唐塗の技法で作られた色も文様もさまざまな蓋物「球ちゃん」は、1か所だけ蓋と身の文様が合うところを作っている。径10×高さ10センチ、各6万6000円。須藤賢一(すとう・けんいち)青森県弘前市大原3-1-31
TEL:0172(88)3988
表示価格はすべて税込みです。 撮影/大泉省吾、本誌・武蔵俊介 スタイリング/阿部美恵 取材協力/日本漆器協同組合連合会
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。