京都府北部で300年にわたって受け継がれてきた丹後ちりめん。白生地のほか、染め物や先染めの織物など、多彩な布が作られています。丹後ちりめんのアンバサダーである、イギリス人きもの愛好家のシーラ・クリフさんとともに、丹後の今を紹介します。
丹後は白生地だけじゃない、さまざまな可能性を感じます
日本遺産に認定された吉村商店峰山支店で。現代の建物は昭和初期の建築で、店舗として使用されています。シーラさんのきものは、丹後の海をイメージした小林染工房作の暈し染め(丹後ブルー)。黒地に波模様の織り帯を合わせ、小物もブルーで統一し、濃いピンクで華やかさを添えました。徹底して色にこだわるシーラさん流コーディネート。 吉村商店
上質な白生地を作り続けてきた老舗 ほかにはない模様が見つかる、吉村商店の白生地。好みの色に染めてもらうこともできます。 京都市内に本店、京丹後市の峰山に支店を持ち、丹後ちりめんの白生地製造・販売を手掛けてきました。天保元年(1830)の創業以来、オリジナルの紋意匠縮緬を主流に、古典からモダンなものまで、緞子(どんす)、紬、古代縮緬など数百種の商品を扱っています。
吉村商店 電話 0772-62-1100
丹後織物工業組合加工場
白生地の精練から仕上げまでを一般公開します 白生地を精練液に浸けると、糸の周りのセリシンが溶け出します。この後、水で洗う作業を、4回繰り返します。大量に使用する水は、そばを流れる竹野川の水を汲み上げて使い、よりきれいな水にして川に戻します。 織元で織られた丹後ちりめんの白生地の多くは、丹後織物工業組合直営の加工場に運ばれます。工場で絹糸の表面のタンパク質(セリシン)を取り除く精練を行い、乾燥、整理、検品を経て、織元や問屋から全国へ出荷されます。その感動的な加工工程を見学することができます(予約制)。
「精練のおかげで手がすべすべです」と工場長の名定和幸(なさだかずゆき)さん。 丹後織物工業組合 電話 0772-64-2490
江原産業
ファッションとしてのきものを意識した色柄 きものもファッションの一つとの考えから生まれた作品。右は七宝繫ぎを軽やかにアレンジした立体感のあるきもの地、左は昭和レトロな模様を今風に。
「秋には天橋立にギャラリーをオープンする予定です」と代表の江原英則(えばらひでのり)さん。 紋意匠縮緬に欠かせない紋紙を作る紋工所から出発し、やがて白生地や先染め織物も製作。現在は伝統を大切にしながらも、色柄ともにファッション感覚に重きを置き、オリジナルにも力を入れています。「きもののイベントで表と裏で柄が違う反物を購入したのですが、それが江原さんのものでした」とシーラさん。
江原さんの織りにひかれた、シーラさんが特注したきもの。色見本のように、何色もの唐草模様が並んで織り出されています。 江原産業 電話 0772-42-6238
柴田織物
伝統の技と先進技術を融合した個性派が得意 右・錆びたトタンと蛇柄をイメージしたきもの地。左・切子柄の模様が素敵な色無地。 シーラさんがアンバサダーに就任した際、選んだ色無地が、柴田織物の黒地でした。「喪服と間違えられないように、八掛を鮮やかなピンクにしたんです」と、今も出番の多いお気に入りです。伝統の縫い取りちりめんの技を守りながら、誰もやっていないことに挑戦したいという代表の柴田祐史(ゆうじ)さんは、異業種の仲間とも積極的に交流。絹糸にナイロンの糸を織り込むなど丹後ちりめんの未来を模索しています。
柴田さんが着ているのは、鋼板をイメージした柄のきものと羽織。シーラさんは大正時代の帯で黒とピンクのお洒落を。 柴田織物 電話 0772-42-2843
小林染工房
上質な白生地から生まれる、さまざまな染め 「丹後ブルー」シリーズの帯地。特別な染料を用い、ブルーの濃淡で神秘的な丹後の海を表現。 「丹後ちりめんの白生地があるからこそ、できる仕事です」という小林知久佐(ともひさ)さんは、京都市内で友禅の引き染め師としてキャリアを積み、23年ほど前に丹後で工房を開設しました。無地染めや暈し染めを得意とし、オリジナルのきものや帯を制作。丹後の海をイメージした作品も好評です。
右は工房を構えて最初に手掛けた「丹後柿渋織」のきもの地。緯糸に柿渋で染めた糸を織り込んでいます。左は美しい色合いのオリジナルの帯揚げ。 「染めは白生地が命ですね」という小林さん。
小林さんの工房には、壁一面に染めで使用する刷毛がずらりと並んでいます。 小林染工房 電話 0772-72-4975
撮影/久保田彩子 構成・取材・文/宮下信子