積極的に検診を受けたいのはがん死亡が多くなる55〜69歳
「精密検査で経過観察となった場合、基本的に問題ありませんが、気をつけたいのは胃がんリスク検査(ABC検査)と子宮頸がんHPV検査です」と中山先生は指摘します。
これらの検査は発がんのしやすさを判定するもので、高リスクと判定された人が要経過観察となります。
がんを発症しても早く対応できるよう年1回経過観察を続けることが肝心です。しかし、数年経つと経過観察を受けなくなる人が多いことが問題となっています。自己判断せず医師の指示に従いましょう。
「対象年齢のうち、検診を積極的に受けたいのはがんによる死亡者が増えてくる55~69歳です(下グラフ参照)。職場検診が機能しているので勤めている間はよいのですが、定年退職すると検診を受けなくなる人が多くなります。がん死亡リスクが高くなる年代にもかかわらず、この状況は問題です。また、住民検診となる専業主婦の受診率の低さも指摘されています」と中山先生は注意を促します。
●検診を積極的に受けたい年齢はがん死亡リスクが高まる55~69歳国立がん研究センターがん対策研究所検診研究部提供資料をもとに作成年齢階級別の主な死因データをみると、がんによる死亡は罹患者数が増えてくる50歳頃から多くなってきて、死亡率が最も高くなるのは65~69歳で全体の48.4パーセントと半数近くを占めるようになる。その後、がんによる死亡は減ってきて85~89歳では全体の4分の1以下(22.1パーセント)まで低下する。
一方、高齢になればなるほどがんを発症しやすくなり、加齢とともに罹患者数は増えていきますが、がんで死亡する人は減ってきます。
「死亡リスクは下がるため、高齢者が検診を受けるメリットはそれほどありません。むしろ後期高齢者になると検診を受けるデメリットのほうが上回ります」。
例えば、人間ドックで大腸がん検診として実施される大腸内視鏡検査では下剤の使用による脱水が原因で脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクがあります。
米国の調査では検査1000人あたりのリスクが66~69歳では12.6人だったのに対し、75~79歳では20.6人、80~84歳では25.7人、85歳以上では31.8人となり、加齢とともに発症リスクは高まります。
「後期高齢者になったらがん検診を卒業し、寝たきりにならないようフレイル対策に切り替えたほうが健康寿命をまっとうできるように思います」。
取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。