ローザンヌ国際バレエ・コンクールといえば若手ダンサーの登竜門としてバレエ・ファンに留まらない注目を集めてきた催し。日本でも毎年、決選の模様がNHKで放映されますが、2017年は、そのスタジオ解説を観て、「今年はひと味違う」と感じた方も多いのでは?
まず、コメンテーターが男性というのが珍しい。レベルの高いファイナリストたち一人ひとりの踊りに対する講評も、「バレエ好きはそこを知りたかった!」というピンポイントの鋭さです。加えて、合間には自らお手本を見せる、というのも初の試みだった様子。
柔らかな語り口にすっと伸びた背筋、シンプル・シックな装いも印象的なその男性とは、山本康介さん。名門として知られる英国ロイヤル・バレエスクールに留学し、2000年に最優秀の成績で卒業。日本のファンにも馴染みの深いバーミンガム・ロイヤル・バレエで、長く活躍なさったダンサーです。
山本さんがバレエを始めたのは、7歳のとき。すぐに、「天才少年が来た!」と、地元の愛媛県今治市はもちろん、四国の先生方の間でも話題になったとか。ご自身はテクニック面で苦労されたことは少ないはずなのに、現在の山本さんは、日本を拠点に幅広い世代やレベルの生徒の指導者として、また振付家として引く手あまたです。
名ダンサー必ずしも名教師ならず、の例もままある中、「昔から人の踊りを観るのが好きだった」という観察力が、生徒達の能力を引き出しているとお見受けします。
その目には、日本の現在のバレエ風土は、どのように映っているのでしょう?
山本康介さん(以下、敬称略):精神論の指導が多いですね。たとえば「頑張れ」というとき、英語ではTry your best!(ベストを尽くせ) Open your chest!(胸を開いて) Chin up!(顔を上げて)というように、具体的で身体に響く言葉になるのですが、日本では「舞台は最終的には一人だ」とか、「音楽が始まったら最後までやりきれ」とかになる。
そうした国民性が舞台作りに見事に反映されてしまうのが、バレエの面白くて怖いところでもあります。たとえばフランスは、「オシャレで遊び心があって、きちっとした中に一つだけ乱す美意識」。それに対して日本は、「全部完璧じゃないといけない。」
でも、そもそもバレエに打ち込んでいる人で、自分を追い込めない方が少ないんです。頑張ろうとしているところにさらに頑張れといったら、萎縮してしまうだけ。僕は「緊張する暇があったら、注意を一つずつ思い出してね」と声をかけるようにしています。