具体的、かつ追い込まない指導ぶりは、2017年11月に山本さんが指導・監修して発売されたレッスン映像、『ディズニー・バレエ・マウササイズ入門編』でも随所に伺えます。
たとえばピルエットの練習。片足を軸にした回転はバレエの華ともいえる技の一つで、プロともなればダブル(2回転)、トリプル(3回転)の高度な連続技も珍しくありません。けれどもここで、山本さんが指示するのは、まず半回転から。以前、生徒が「わぁ、怖い!」と声を上げたのが、ステップを分解するお稽古を組み立てるきっかけになったといいます。
本来の対象としているジュニアだけでなく、指導者や大人のビギナーにも得るところが多いのでは思える映像ですが、バレエを観るのが好きというファンにとっても堪らないのが、「バレエのポーズの起源」についてのオープニングの解説でしょう。
デイヴィッド・ビントリー振付『ギャラントリース』を踊る。バレエはじつは、ルイ14世のフランスで本格的な発展を遂げた芸術。その歴史的な事実を知る人は多くても(ルイ14世は「太陽」の役を自ら務めたこともある、“踊る王様”だったのです)、このジャンル特有の身体の使い方を、宮廷生活というバックグラウンドに立ち返って教えてもらえる機会は稀です。ところが山本さん、冒頭からいきなりそこに分け入るのです。「全ての指を揃えないのは、指輪を見せるため」「片方の肩を引いた上体の構え(エポールマン、といいます)は、ネックレスを見せるため」と。
山本:バレエのために考案されたものは一つもなくて、貴族文化がそのままバレエになったんですね。姿勢が悪いと昔のヨーロッパのドレスは脱げてしまうし、“自分の採寸のまま“きちんと座っていないとファブリックがよじれたり、ボタンが飛んだりしてしまう。ルイ14世なんてハイヒールで踊っていたのですから、つま先を伸ばさずにかかとから足を出すなど、無理だったんです(笑)。
バレエの優雅さには根拠があるのが、じつによくわかります。
山本:こうした知識は、ヨーロッパに留学したメリットですね。
けれどもこの指導法、遡れば最初の恩師である山口美佳先生の直伝でもあるのだとか。