きものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。生前、母は病状などに拘らず、常に「死」を意識して生きていた。日常の当たり前の風景としての死を。それは「終わり」という物理的な死だけではなく、終わりがあるからこその生命の煌めきのようなもの。私は物心ついた頃から、「食べるのも日常、死ぬのも日常」という彼女の言葉通りの覚悟を、隣でひしひしと感じてきた。
長男・雅樂(うた)くんの出産後に受けた取材記事の1ページ。希林さんが也哉子さんを抱く写真とともに掲載された誌面を切り抜き、フォトフレームに収めているそうです。「写真は家族の記憶をとどめ、かたちを整えるもの」と語った希林さんの想いは、也哉子さんへも受け継がれています。やがて、彼女は75年目の桜を存分に見届け、その半年後、まさしく桜ばなのように潔く生命を生き切った。もちろん、今はあのお気に入りの桜の樹の下で、45年も別居をしつつ添い遂げた父と共に眠る。平坦な道のりではなかったけれど、誠に天晴れな生涯だったと、わが母のことながら、今日も思う。
母と娘の新たなる邂逅 内田也哉子の「衣(きぬ)だより」
撮影/森山雅智 きものコーディネート・着付け/石田節子 ヘア&メイク/EITA〈Iris〉 着付け/杉山優子 構成・取材・文/樺澤貴子 撮影協力/鳩山会館
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。