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工藤美代子さん【快楽(けらく)】第10回 その恋は本物? それとも国際ロマンス詐欺ですか(後編)

2023.03.03

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潤う成熟世代 快楽(けらく)─最終章─ 作家・工藤美代子さんの人気シリーズ「快楽」の最終章。年齢を理由に恋愛を諦める時代は終わりつつある今、自由を求めて歩み始めた女性たちを独自の視点を通して取材。その新たな生き方を連載を通じて探ります。前回の記事はこちら>>

その恋は本物? それとも国際ロマンス詐欺ですか(後編)




文/工藤美代子

これから上場する会社の株を買えば、絶対に値上がりする。内部情報を入手しているから買ってみないかと勧められたのは、知り合って2カ月後くらいだった。上司の飯沼さんは昨日10万ドルを投資した。もちろん個人としてである。本当は会社では禁止されているのだが、もしも千波さんも投資したかったらボクの名前で買ってあげてもいいよと言って来た。


堅実な千波さんは、すぐに断った。彼の名義で買うのは奇妙に感じたからだ。正直にテッドに告げると、彼は「あなたと結婚するつもりでいる。あなたさえ良ければ」となぜか性急にプロポーズするのだ。なんと返事をしたら良いのか呆然としてしまったが、テッドは毎日せっせと愛の告白を続けた。

私の想像では、この辺から彼女も彼のペースに巻き込まれて、すっかり恋愛モードに突入したのだろう。思い切って香港へ行って、テッドに直接会ってみようと決心したらしい。

「ところがね、テッドから上司の飯沼さんが年末に仕事で日本に行くから、彼をアテンドしてあげて欲しいって頼まれたの」

千波さんは亡くなった酒井さんの知り合いだから、挨拶くらいはしなければと考えたらしい。なぜテッドは日本に来ないのか、それも疑問だったが、単刀直入に当人に尋ねる勇気はなかった。

飯沼さんという50代くらいの紳士が千波さんの家を訪れたのは、クリスマスの数日前だった。かつては、日本の証券会社に勤めていたが、香港の会社に誘われて早期退職した。その香港の会社とは日本と中国の合弁会社だと説明された。彼の直属の部下がテッドだった。

「あなたにお会いしてわかりました。こんな美しい人ならテッドが夢中になるのも当たり前だ。私だってあなたと結婚したいです。もちろん、あなたを幸せにします」と飯沼さんは瞳を輝かせながら、千波さんの顔を何度も見たそうだ。

「なんでそこで、これは怪しいと気付かなかったのよ」と、私はかなりきつい調子で彼女を詰なじった。友人に対して、あんなに激しい口調になったのは初めてかもしれない。だって70歳を過ぎた女性に、初対面でいきなり血迷ったように求婚する男なんてあり得ないだろう。

ところが、千波さんは何かを思い出すように上の空の顔をしている。

「だってぇ、飯沼さんったら真剣に私のこと口説いたのよ。テッドと別れてくれ。あなたのために香港と東京に家を買いたいなんて言うの」

この時、私の怒りはほとんど沸点に達していた。

「でも、心配しないで。私はテッドを裏切る気持ちなんてなかったし、飯沼さんには引っかからなかった。未公開株への投資を勧められたんだけど断った。それで大正解だったのよね」

千波さんは一人で頷いて、それから20分くらい飯沼さんが極悪非道の詐欺師だと喋り始めた。
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