名家の至宝 尾張徳川家の雛まつり 後編 かつて、御三家筆頭の地位にあった尾張徳川家。その栄華のほどは嫁入り道具の雛飾りからもうかがえます。国宝を含む雅やかな品々が散失するのを防ぐため、19代当主の侯爵・徳川義親(よしちか)氏が代々継承されてきた家宝を寄贈し、創設された「徳川美術館」。今春も技巧の精緻を極めた調度や大雛段飾りが公開されます。
前編の記事はこちら>> 14代慶勝公の正室・貞徳院矩姫所用の品々。徳川美術館には現在、国宝の「初音の調度」をはじめ、数多くの至宝が所蔵されています。14代慶勝(よしかつ)公正室・貞徳院矩姫(ていとくいんかねひめ)の有職雛や松竹梅唐草蒔絵の雛道具などが毎年、春の訪れとともに公開されます。ここには日本美術史上においても重要な文化遺産が受け継がれているのです。
合貝
夫婦和合の象徴とされる合貝(あわせがい)を納める貝桶は、婚礼調度の中で最も重要なもの。大名の入輿行列においては先頭を飾り、“御貝桶渡役”なる家老や重臣が相手方に貝桶を渡す役を務めます。
貝桶2個で一対とされ、蒔絵が施された雅な貝桶の中には源氏絵や花鳥風月など極彩色の大和絵が描かれた貝が通常は360組納められています。当然、婚礼調度品の雛道具にも貝桶があり、小さなものでは1センチほどの貝が詰められています。
21歳の若さで亡くなった福君の合貝。福君は、五摂家の筆頭・近衛家から尾張徳川家11代斉温公に嫁いだ。婚礼調度や雛道具には至るところに、近衛家の家紋の抱牡丹紋と徳川家の葵紋が配されている。貝殻の内側にはそれぞれ一対となる緻密な絵が描かれており、同じ絵柄を探して遊びます。そして集めた貝の数により勝ち負けが決まります。貝は二枚貝の蛤を使い、貝桶に合わせて大小が選ばれます。揃った大きさの貝を探すのもたいそうなことで、合貝作りには多くの時間を要します。
徳川美術館 特別展
尾張徳川家の雛まつり
女の子の健やかな成長と幸せを願う雛まつりは、尾張徳川家でも大切な行事の一つでした。婚礼調度の精緻なミニチュアの雛道具や、公家の装束をまとい気品ある顔立ちの有職雛、京の宮廷や公家などに愛された御所人形といった江戸時代から伝わる雛飾り、明治から昭和に至る尾張徳川家3世代の当主夫人たちの豪華な大雛段飾りなどがずらりと並びます。
徳川美術館 本館愛知県名古屋市東区徳川町1017
会期:~2023年4月2日(日)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)
観覧料:一般1400円
※本特集では、この特別展で展示されない作品も掲載されています。
表示価格はすべて税込みです。 撮影/小林庸浩 取材・文/萬 眞智子
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。