この春、京都の特別席へ。皇室の信仰も篤い泉涌寺で花見散策と精進料理を楽しむ

京都で花見弁当の宴を

街のいたるところが桜色に染まる京都の春。家庭画報企画による期間限定の特別席と、雅なお弁当が味わえる名料亭へ、ご案内します。

泉涌寺×矢尾治
皇室の信仰も篤い御寺で、花散策と精進料理を楽しむ

東山三十六峰南端の月輪山麓の奥まった境内に大門、仏殿、舎利殿などを有す真言宗泉涌寺派の総本山、泉涌寺は、皇室の御菩提所として知られ、「御寺（みてら）」と呼ばれます。




4月上旬から中旬にかけて見頃を迎える楊貴妃観音堂前に咲く楊貴妃桜。白い八重に紅をさしたような愛らしいピンク色の桜で、1週間ほど咲き続ける。境内では大門の前で山桜、仏殿近くで染井吉野も楽しめる。撮影／水野秀比古

この春は、皇族方が御陵参詣の際に御休憩所として使われる「御座所」や、境内に点在する桜を、僧侶の案内によって巡り、精進料理をいただく期間限定の特別席を設けていただきました。

御所より移築した本坊で、心づくしの縁高弁当をいただく

秋篠宮文仁親王殿下命名の「五行の庭」と石庭の間に建つ、御所より移された本坊の小方丈。襖絵も御所にあったもので、中国・前漢の劉向の著作「列女伝」が描かれている。

御座所は明治17年に京都御所内にあった皇后宮の御殿を移築した建物であり、食事は本坊の広間、小方丈にていただきます。

料理を担うのは、明治元年創業の精進料理専門の仕出し店「矢尾治」。「食材は野菜や乾物に限られていますが、旬の食材に秘伝の味つけを取り入れ、お花見弁当に仕立てました」と語る4代目主人の上田倫正さん。桜をかたどった野菜や春の旬味を彩り美しく縁高に盛り合わせます。



野菜や精進もので五味五色を表現した縁高弁当。旬の筍やうど、菜の花などを使った和え物や炊き合わせに、桜を模した生麩やにんじん、花びら百合根、一寸豆を添えて花見の趣に。油分を補った飛龍頭や粟麩の柚子味噌田楽、里芋のあられ揚げは味わい深く、食べ応えがある。大根の味噌炊きは箸で切れるほどの柔らかさ。



よもぎを練り込んだ胡麻豆腐と、昆布だしで仕立てた若筍のお椀。

炊き合わせの大根の味噌炊きは開山の月輪（がちりん）大師の好物とされ、泉涌寺では決まって出される料理の一つ。そのやさしい味に、心も体も喜びます。



境内の案内役で、華道月輪未生流の主任も務める泉涌寺の熊谷道玄さん（左）と、精進料理の仕出し店「矢尾治」の主人、上田倫正さん（右）。

さらに泉涌寺に至る参道にある塔頭寺院にも桜が点在し、なかでも新善光寺は知る人ぞ知る花見の名所。桜のみならずさまざまな花が咲き誇り、京都ならではのはんなりとした春景色に出会えます。



泉涌寺の塔頭の一つで、花の寺としても知られる新善光寺。訪れる人をやさしく包み込むように枝を広げる前庭の枝垂れ桜をはじめ、シャクナゲやツツジなどの花が次々と咲き、春を告げる。寺庭の草花の判子を押した手書きの御朱印が人気。撮影／水野克比古